恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□20話 晩冬T
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【丸井side】
「どうだ、ブン太。俺が言ったことの意味はわかったか?」
「…十分だ」
「なによりだ。そんなわけだから、精々気をつけろよ」
意味はわかったけど、意地でも失敗とか思ってなんかやらねぇ
――それは柳に直接言わないで、心の中に留めておいた。
ったく…今日がどういう日なのか、スッパリ綺麗に忘れてたぜ。
ここ数日、アイツのことで頭一杯だったから、周りがビミョーに浮かれた空気出してきてんのも気付かなかった。
2月14日。
決まって学校中が騒がしくなる一大イベントの日。
朝練終わるまで全然思い出さねぇで、敢えて見ないフリして屋上庭園にいるアイツを意識してた。
で、コート出て校舎に入ったら…嫌でも、今日がそういう日だって思い出したってわけだ。
思わず、誕生日ん時みてぇな感覚が出て来て、押しかけてきた女子達のプレゼントを流れで受け取ろうとして
―――・・・・我に返った時には、堂々と宣言しちまった後。
好きなヤツがいるからソイツ以外のモンはいらねぇ――
「丸井、とりあえず、机の上に置いて行こうとしてた女子は追い払っといたぞ」
「さんきゅ、荒井」
「大変だな」
「そうでもねぇよ」
俺が今日、しようと決めたことを実行するより、よっぽどな。
二学期の途中の席替えで偶然、隣の席になった荒井に礼を言う。
そして、柳が「神谷自身も気付いてなかっただろうが」と打ち明けてきた話題を反芻した。
誰の発言が発端なのか、それはわからねぇ。
最初は、“黄色のリボン”は“神谷瑞紀”の代名詞みたいになってたらしい。
けど、話題が広まるにつれて、実際のマジであのリボンをゲットしたヤツがアイツの彼氏、っていう風になったとかなんとかで。
三学期が始まってから、密かに広まって来た話題らしい。
ったく、ふざけんなよ――内心で舌打ちした時
アイツの声が聞こえた。
『他のこと気にしてる余裕が皆無だった。ていうか、なんでこのリボンが賭けの対象になってんだ、ふざけるな』
水野ってヤツらと喋ってるアイツは、心底疲れたような顔で机に肘ついてため息。
同じように思ってくれてんだって、安堵と嬉しさと、妙な気恥かしさが心に浮かぶ。
―先輩、そのリボン、俺にくれませんか?
―なぁ、特定のヤツがいねぇんなら俺にくれよ。駄目か?
―前も一度コクったけど…
―委員会で一緒に仕事してきたけど、ずっと気になってたんだ
―他のリボンもきっと似合うよ。だからそれ、僕にくれない?
「好きだ」よりも「リボンを俺に」ってな言葉が、今日のアイツに対する告白文句になってやがる。
また一時間目しか終わってねぇのに、どんだけの野郎にアプローチされたんだろうな…。
「瑞紀ちゃん、なんか凄いねぇ」
「ねー。誰とくっつくかなぁ」
「でもさぁ、瑞紀ちゃん本人が誰が好きかとか、聞いたことなくない?」
「そーだね」
「特に誰もいないんじゃない?もしかしたら、今日告白してくる人とくっつくかも!」
「あたし達で見定めなきゃね!変なヤツにはやんないもん!」
「そーそー」
「一年の時はさぁ、神谷さんって恋愛とかキョーミなさそーとか思ったけど、なんか最近はそうでもないよねー」
「誰がリボン貰うのかなぁ」
こうしてみると、改めて実感する。
アイツのことを、ミーハー的な意味じゃなくて、心底慕って好きになってるヤツは大勢いるってこと。
中には、あのリボンをゲットすんのをゲーム感覚に思ってる、マジでふざけたヤツも少しいるけどな。
周りの女子も神谷のことは大好きで、だからすっげぇ嬉々として注目してるし。
アイツが好きなヤツ、か…そういやぁ、そこらへんは確かに、聞いたことがねぇ。
そういう素振りも見せねぇし。
でも、いる可能性は十分にある。
「(周りのヤツ、この二人の雰囲気に気づかないのかよ…)」
「…ん?なんか言ったか荒井?」
「いや?なぁ、丸井」
「なんだよぃ」
「俺はお前のことも、ダチとして好きだからな」
「な、なんだよ改まって」
「まぁいーじゃん」
コイツ…っとに、こういうこっぱずかしいこと、よく平気でストレートに言えるよな…。
荒井だけじゃねぇ。同性の俺から見ても、良いヤツは沢山いて、でもってその中に神谷のことが好きなヤツもかなりいる。
さっきは高等部のヤツまで、教室に来て堂々と告白してた。
アイツ、どんだけ人望集めてんだよ…。
一人ひとり、しっかり真正面から向き合って話をしていく神谷は尊敬する。
まさかの話題の中心になってて疲れてはいるけど、邪険にはしないで、いつも通りの態度で。
だから、空気とか雰囲気が悪くなるとかそういうことが全くない。
今のところ、コクった全員、「知り合い」もしくは「友人」になって帰っていく。
――今朝、今日は結果がどうなっても特別な日になるって覚悟して
そんで、複雑な想いを込めて、アイツの髪をイジった。
まだ、あのリボンはアイツの髪に健在だ。