僕の世界

□闘いの世界
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王都の宿屋の一室、華美ではないが小綺麗な部屋で、犬の少年はふと目を覚ました。
目を開けて最初の視界は、ベッドの格子と、その奥に見える白い壁だった。

彼ら獣人は尻尾がある関係上、眠る時はうつ伏せになっている者が大半を占める。
仰向けで眠れない訳でもないのだが、尻尾が痛くなるため、そういった者はごく少数に限られる。



「朝、か……」

犬の少年ジャックは、顔をゴシゴシとこすりながら呟く。
同じ宿屋で迎える、2度目の朝。昨日のような酷い頭痛を感じなかったことに安堵した少年だが、彼は自分の体の一部…尻尾の辺りに、何か違和感を感じ、掛け布団をどかして自分の体を確認しようとした。



金色。



布団をめくると、犬の少年の視界いっぱいに金色が広がった。
この金色は間違いなく、犬の少年の弟、エルフの子のものだった。
何故だかエルフの子は犬の少年のベッドに入り込み、どこか幸せそうな顔で眠っていた。しかも、その手はしっかりとジャックの尻尾に添えられている。

「……何してんだ、アル」

「……っ!」

眠っている弟に、やや呆れた感情を込めた言葉をかける犬の少年。
エルフの子は寝起きが良いのか、すぐに目を覚ましてベッドから抜け出そうとする。

「待ーてって」

「あ、ちょっと…兄さん」

しかし、犬の少年はエルフの子の体を引っ掴み、ぐいっと引っ張り寄せる。ベッドの中で羽交い締めにされたエルフの子は、背中越しに犬の少年の高めの体温とモフモフとした毛皮の感触を感じていた。

「お前が俺のベッドに入ってくるってことは、またアレだろ?嫌な夢でも見たんだろ?」

「それはその…うん」

犬の少年の問いかけに、エルフの子は小さな声で答える。最近はめっきり減っていたが、エルフの子は小さい頃から1人で眠れないことがあり、よく犬の少年のベッドに潜り込んでいたのである。


「ほら…。昨日、人間の遺跡で兄さんとメリルさんがいなくなったことがあったでしょ?…その時のこと寝る前に考えてたら、お父さんたちがいなくなった時のこと、夢に出てきて…」

「……そっか。嫌なこと思い出させたな。ごめんな」

「ううん、兄さんのせいじゃないよ。……でも、あの時、本当に怖かったんだよ。兄さんまでいなくなったらって思うと、本当に怖かった」

犬の少年の腕を掴んでいたエルフの子の手に、力が入る。犬の少年は本気で心配してくれたのか、と感じ取った。



「……それで、それだけか?」

「…えっ?」

「……単に俺の尻尾に触りたかったとかは?」

「……」

「図星かよ」

「はい…」

クスクスと笑う兄、犬の少年と、恥ずかしそうに目を伏せる弟、エルフの子。

エルフの子はハッとした顔をすると、話を逸らすために慌てて話を変えようとした。

「そ、そういえば姉さんは?姉さんも、僕の後に兄さんのベッドに潜り込んでたはずだけど…」

「えっ?お前しかいなかったぞ…?」

犬の少年はそう答えた後、体を起こして辺りを見回す。

見えたのは、朝風呂に行った竜人ヴァイスが使っていたベッドと、未だベッドの中で眠り続けている人間の少女メリルの姿。
人間の少女の寝顔に一瞬注視した犬の少年だが、すぐさま顔を逸らした。すると、目を逸らした先、自分のベッドの下に何か転がっているのが見えた。

「……いやがった」

妹である妖精の子は、エルフの子とは反対側に陣取っていたようだ。だが、生来の寝相の悪さが発揮されたのか、彼女の体はベッドの下にずり落ちていた。大の字で幸せそうな表情で眠っている。

「兄さん、姉さんのことどうしよう?」

「とりあえず、放っておけ。今の時期なら何も被ってなくても風邪は引かないし、変な体勢にはなってないから体痛めることもないから」

かくして、黙って街を歩けばかわいいと人目を引く妖精の子は、ベッド下の床に捨て置かれることとなった。
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