Changing
□狼と猫、可愛さ倍増!
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近くを川が流れる水音が聞こえ、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえる。
狼の発達した嗅覚には、木や花の匂い、森の土の匂いが強く訴えかけてくる。
山の上から差し込んでくる朝日がまぶしい。
…ようやく、洞窟から外に出てくることができた。
なんだかんだでケットシーという魔獣、マルがカナタと契約した。マルは晴れてカナタの魔獣第2号になった。俺はマルの先輩ってことになるのか?
契約の後、もう日が暮れる時間になるということで、洞窟の中の隠れ家で一泊し、朝になって外に出てきたところだ。
ちなみに、寝る時には女性陣が寄り添うように集まっていたが、唯一の男、ライだけは部屋の隅でぽつんと横になっていた。
側から見て余りにも不憫だったので、俺が慰めてやろうと側に寄った所、ライは四つん這いの体勢で逃げ出した。
結局ライの側にはマルがつき、俺はカナタとミスラに無理やり側に寝かされた。もちろん、ロクに眠れなかったけどな!
「外だー!」
カナタが洞窟から出て、真っ先に叫ぶ。
「外だー!」
カナタに続いて叫んだのはそばかすベリショのボーイッシュ少女、ミスラだ。
カナタとミスラ、妙にウマが合ったらしく、昨日出会ったばかりとは思えないほど仲良くなってる。
今もやまびこを聞いてワイワイ笑いあっているところだ。
「はぁ…。やっぱ、洞窟の中は息苦しかったな。しかしお前、よく何十年も洞窟暮らしなんて出来たな?」
「僕も魔獣ですから、洞窟暮らしは苦になりません。…でも、やっぱり日の当たる場所で過ごすのが人間らしいんですよね」
「考えてみれば、隠れ家の照明に使われていた魔石の光は太陽の光に似ていたわね。賢者様も、同じことを考えていたのかしら」
後から続いてきたのは、ミスラの兄で剣士のライ、昨日仲間になったばかりのケットシーのマル、この隠れ家に来ることの発案者の魔法使いのイースだ。
ライやイースはともかく、マルの落ち着きっぷりは、かわいい見た目とのギャップが凄まじい。
だが、昨日ケットシーの更に詳しい身の上話を聞いて納得した。
なんとコイツ、年齢だけならこの中でダントツ上、36歳だったらしい。
魔獣の歳の取り方は人間よりもかなり遅く、マルの年齢は人間に換算すればまだ12歳ぐらいだそうだ。
長生きしてる割に子どもっぽい所も多いなーと思ってたけど、実はマルの奴は隠れ家から出たことがあまり無いという。
賢者と出会ってここに連れてこられてからは、たまに外で賢者と魔法の練習に行く他には、出ることを禁止されていたらしい。
マル自身の安全の確保や、近くの町を混乱させないための措置だったらしいが、よくそんな窮屈な生活してきたなと思う。
しかし、やっぱり洞窟の中なんて窮屈なところから出てくると、俺も声の1つも出したくなるな。よし。
4本の足に力を込めて大地を踏みしめ、腹の奥底から声を出す。
「アオォォォォォーーーー………」
狼らしく、遠吠えをしてみた。我ながら会心の出来栄えだな。
やまびこも相まって、響く響く。
誰とも話すことができない寂しさとか、いまだに訳がわからない獣化生活の鬱憤とかを込めた結果、思っていた以上に豪快な遠吠えになった。
はー…。少しはスッキリしたかな。
…と思ってたら、なんだか周りの様子がおかしくなってきた。
そこら中の木から鳥が飛び出し、別の狼のものと思われる遠吠えがあちこちから聞こえ、弱そう魔獣が離れていく。おそらく、俺の先ほどの遠吠えに反応しているのだろう。
朝の森は大規模な地震でもあったかのような大騒ぎになっていた。
「ロウ…。遠吠えはカッコよかったけど、あまり他の生き物を脅かすのはやめようね…」
カナタが引きつった笑いで俺の背中を撫でてきた。
うん…。これは流石にやり過ぎた。
「…グルゥ」
スマン、と意味を込めて唸る。
まぁ、伝わるかどうかは分からないけどな。カナタのやつ、妙に勘が鋭い時もあれば変な解釈することもあるから。
あぁ、せめて正確に意思の疎通ができる相手がほしい…。
そんなことを思ってたら、マルが言った一言に、俺は驚愕した。
「ロウさん、スマンって言ってますよ。カナタさん」