僕の世界

□闘いの世界
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遺跡での危険調査の依頼を果たしたジャックたちは、自分たちを襲撃した魔法研究院の院長を拘束して王都まで戻った。

門番に事情を説明した所、すぐさま騎士団が出動するほどの大騒ぎになり、その場で事情説明が始まった。
一通り説明を終えた後、未だに意識を取り戻さない院長は連行されたが、実際に襲撃されたというヴァイスたちは翌日王城に来て改めて証言をするように求められた。



そして、今日がその翌日。ヴァイス、リファ、アルは王城に呼ばれ、証言をすることになっている。

騎士には昨日の内に宿泊している宿屋のことも教えてあるため、今日は騎士が迎えに来るということだった。
そして今、朝食を済ませたジャックたちは宿屋のロビーで迎えの騎士を待っている。
のんびり食後のお茶を飲んで、雑談しながら待っている辺り、緊張感はゼロだ。


「しかしよぉ、お前らホントに仲いいんだなぁ。兄弟同士抱き合って寝るとか、相当だぞ」

「抱き合ってはいないって!アルの方が俺の毛皮を触ってただけだ」

「ちょ、兄さん、声が大きいよ!」

「ていうかさー、なんであたしのことベッドにあげてくれなかったのー?気付いてたんでしょー?」

「気付いてたけど放置したんだよ。お前、鈍感だからあの程度じゃ風邪引かないだろ」

犬の少年はそこまで言ったところで、隣に座っていた妹から、鼻先にチョップを受けた。

悶絶する犬の少年を、フード付きマントで頭を隠した人間の少女が慰める。慰めながらも犬の少年の頭を撫でて毛皮の触り心地を堪能しているようで、どこか表情が緩んで見える。

そんな少女を羨ましそうに見ているのがエルフの子、撫でられている少年を見て笑っているのは竜人の男である。

そんなやり取りをしていると、ふとアルが窓の外を眺めながら呟いた。

「騎士様、遅いね」

「そうだなぁ。朝すぐに迎えに来るって言ってたから、もう来てるかと思ってたぜぇ」

「騎士にも事情があるんだろ。その内来るって」

竜人の男と犬獣人の少年は気にもしていないのか、ソファーにもたれながら返した。
そこに、人間の少女が話を止める。


「……ねぇ、そのことなんだけど…。もしかして、騎士様って…。あの人?」

彼女がそう言って指差したのは、ロビーの一角、1人用のソファーに腰を下ろした1人の獣人だった。

焦げ茶色の毛皮を持つ犬獣人が腕を組み、目の前にある紅茶のカップを見つめながら、何やら思案に耽っている。近づきがたいオーラが溢れ出ているが、それだけではない。

とにかく、この御仁は体格が屈強なのだ。ジャックたちと行動を共にしている竜人のヴァイスと同等の、鍛え上げられた肉体が服の上からでも分かる。

ジャックと同じ犬獣人なのだが、その屈強な体格と険しい顔立ちは、むしろ狼のようにも見える。

服装も黒皮を基調としたハードなもので、とにかく近づきがたい、目が合ったら全力で逃げ出したくなる雰囲気を纏っている犬の御仁だった。



「……いや、あの人は騎士ではないだろ」

「そだねー。人違いだよー」

「(大きなもふもふ…)……あ、うーん、どうなんだろうね」

弟の言葉が何だか遅れたような気がしたが、犬の少年はとりあえず気にしないでおくことにした。

「あの人は騎士っていうより修羅だろ。強そうだけど、なんというか…。お城で働いてるって感じではないだろ」

「うん、どっちかっていうと、怖い人たちのボスだよねー」

「リファ、シッ!!」

犬の少年は妖精の子の口を素早く塞ぐ。どう見ても怖そうな御仁に関わりたくないので、ケンカ売っているような言葉を吐かないでほしいようだ。
件の御仁に聞かれていないかハラハラしながら、彼は話を竜人に逸らそうとする。

「ヴァイスはどう思う?」

「騎士かどうかは知らんが、とにかく一度手合わせしてみてぇ。あいつ、相当デキるぜぇ」

「……闘技場で2人が戦えば、かなりお客さん集まるだろうな」

大柄な竜人のヴァイスと、同じくらいに大きい犬の御仁が対峙する光景を想像し、犬の少年は遠い目になる。
そこに、妖精の子の余計な一言が加わる。


「タイトルつけるなら、怪獣大決戦って感じだねー」

「だからお前、シッ!聞こえてたらどうすんだ!」

また妖精の子の口を素早く塞ぐ犬の少年。
モゴモゴともがく妖精の子と犬の少年の漫才に気を取られ、彼らは犬の御仁から気をそらしてしまった。だから、気付けなかった。





「おい」





重低音で犬の少年に掛けられた声。
それに反応した犬の少年は、ギギギ、と音が鳴りそうなほどにぎこちなく、ゆっくりと後ろを振り返った。
彼の尻尾はくるりと丸まって縮こまっている。




「少しいいか?」




修羅がいた。
妖精の子曰く、怖い人たちのボス、もしくは怪獣。
竜人の男曰く、腕っぷしの意味で相当デキる男。
エルフの子曰く、大きなもふもふ。



黒い皮のジャケットに、はち切れんばかりの屈強な肉体を包んだ犬の御仁が、その半分くらいの大きさの犬の少年の真後ろに立っていた。
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