memory
□episode15 織姫拉致
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棗が眠ってから、目覚めたのは三日後だった。
ずっと眠り続けている棗を心配して、ひよ里が自分の家に連れ帰って寝かせてくれていたようだ。
「…ひよ里?」
「お、やっと起きよったか!あんた寝過ぎや!三日やで三日!うちはもう一護の訓練行かなあかんから鍵してすぐアジト来い!!」
寝起き早々大きな声で叫ばれ、耳がキィーンとなる。
耳を塞ぎながらはいはい、と返事をする。
だが
棗はひよ里に放り投げられた鍵を受け取り
「…いってらっさァーい」
と言ってまた眠ってしまった。
結局ちゃんと起きたのは夕方で、すぐ来いと言ったのに来なかった罰でその日当番だったひよ里の代わりに晩ご飯を作らされた。
「…ひよ里のアホゥ。」
ブツブツとぼやきながら料理していると
「うるさいで!あんたが来うへんかったのが悪いんやっ!」
ひよ里に逆ギレされた。
それをみた一護に慰めの言葉をかけられ。
「なんつーか…ドンマイ棗」
それにはちょっとイラっとしたので
「あんたにだけは言われたないなっ!仮面四秒しか出されへんチンカスの一護には!」
と言ってしまったが、一護もチンカスに反応して負けずに言い返す。
「うるせえよ!チンカスじゃねえ!お前もちょっと前まで似たようなもんだったじゃねえか!!」
「ざーんねーんでしたァー!ちょっと前はチンカスでも今は倍以上出せるからチンカスじゃ無いんですー。べー!!」
「こいつ…くっそ!」
舌を出してベー、とバカにする棗に歯を食いしばる一護。
「 やめとけ、そいつとの口喧嘩は面倒くせえぞ」
出来上がった料理を受け取りながら拳西が言う。
「何や拳西!うちの印象悪なるやろ!」
「もう充分悪いじゃねえか」
「やかましいッ」
近くにあったおたまを拳西の頭目掛けて投げつける棗。
「いてっ!てめぇ…何すんだ!」
「ごーめーん。手ェが滑ってしもたわァー」
ニヤニヤしながは拳西を見て、舌を出す。
それを見たローズが悪化しそうな雰囲気に耐えかねてラブに助けを求める。
「ラヴ、止めてよ」
「嫌だね。俺は今飯食ってんだ。止めたきゃお前が行けローズ」
だが断られた挙句自分で行かされそうになる。
「僕にあの二人を止めれるワケないだろう…?」
「しゃーない、一護行ってこい」
面倒くさくなったひよ里が修行の一環や、とか言って一護に行かせようとするが。
「いや、何でそういうの全部俺なんだよ!」
勿論ツッコんだ。
「ごちゃごちゃ言いなや!訓練したっとんねんからそれくらい当然やろ!」
ひよ里の無茶苦茶な理屈に言い返すのも疲れた一護は
「はあ…」
嫌々ながらトボトボと歩いて拳西と棗の言い争いを止めようとする。
「…そこら辺にしとけよ二人とも」
「「あ?!」」
しかし、二人の殺気だった眼に負けて
「…ゴメンなさい」
と後退る。
後ろから何かひよ里や平子が野次を飛ばし、それに紛れてひよ里が早よ止めて早よ飯食い!と叫ぶ。
本当にめちゃくちゃだ。
「わかったよ…」
一護は止めるのを諦め、食べることに専念する。
一方、二人はまだ叫びあっていた。
「この筋肉馬鹿!!」
「何だとこのピアス女!」
「なっ…!それはあんたもやろピアス筋肉男!!」
「うるせえな、変態スケベエロ本女!」
「アホ!変態とスケベを一緒にすんな!ていうか、それやったらリサも当てはまるやろっ!」
「じゃあ何て言やいいんだよ!あと、銀髪被ってんだよ!オメー紅髮だったろ!! 」
拳西の言葉に一人え?そうなの?とか言っている一護はそっちのけで言い争いは続く。
「やかましいっ!うちはこの色気に入っとんねんほっとけ!」
「やかましいのはテメーだろーが!!」
棗は本当に誰とでも口喧嘩できる才能でも持っているのか。
常に誰かしらと喧嘩している。
食事を食べながらその様子を見ていた白が疑問を抱き、棗に声をかける。
「ねーねー。棗っち、ホントに何で髪色変えちゃったのおお?!」
「いや…特に理由は無いんやけど、カッコええやん?」
そう言った棗は髪を触りながら、目を細めた。
本当は記憶を失ったばかりの頃、毎日髪を見ては嫌気がさし、外を歩いているわけでもないのに気になって。
浦原に頼んで色を変えてもらった。
でも、結局派手な色が好きな棗が選んだのは拳西とモロ被りの銀色だったのだ。
しかし、そんな事を知らない拳西はお構い無しに
「戻せ」
先程からこの一点張り。
せっかく白が割り込んで話の決着つきそうだったのに…
「いややっ!!拳西のアホ!筋肉!銀髪!」
「銀髪は今のてめーもだろうが!」
ギャーギャーと言い争う二人を横目に他のメンバーは食事を済ませる。
ただ一護だけは
「止めなくてホントにいいのか…?」
と心配していたが、ほっとけと言われ、気にしながらもひよ里との訓練を再開した。
「そないなこと言うんやったらお前が色変えたらええやろっ!」
「アホか!何で後から色変えたオメーにそんなこと言われなきゃいけねんだよ!」
「やかましい!文句言うんやったら人の髮色にいちゃもんつけんな!」
「何だとてめぇ!」
いつまでも決着がつかない二人は同時に平子にあたる。
「真子!何とかせえこの銀髪タンクトップピアス男!」
「真子!この銀髪アホエロピアス女何とかしろ!」
「何で、オレやねん…」
はあ、とため息をついて平子は何とか二人をなだめ、その日は丸くおさめた。
結局棗は次の日、拳西が煩いので元の鮮やかな紅に髪色を戻した。
髪色を戻した棗は
この色が嫌いなんは嘘やない…。きっと記憶無くなって昔と同んなじ考えなってもたんやろなァ。うちの紅は血ィみたいな汚い紅や・って。でも、綺麗って言うてくれたから
と、昔を思い出してフッと笑った。
一護はこの髪を見て「うおっ!何だよその髪!!」と言ったけどもう、棗は今度は自信を持って言える。
「ええやろ?うちの自前で自慢の髮や。あげへんでー」
「要るかよっ!」
と言う声がきこえたので、一発殴ってやったら「き、綺麗な髪ですね…」と訂正した。
皆はまだ記憶が無いと思てるから
うちが髪を戻した理由を知らへんやろうけど、見て欲しいなァ。
皆が綺麗や言うてくれたこの髪を。