Till when should I wait?

□01
3ページ/8ページ




お届け先は十番隊が一番最後だった


ドアをノックして部屋に入らせてもらう


「失礼しまーす」




「はーい、…って華じゃない!お菓子食べてく?」

「堂々とサボりを勧めるな、松本」


「えー」

「えー、じゃねえ」


はいどうぞ、と書類を渡してそれに目を通すのは眉間に皺を寄せた十番隊隊長さんの日番谷冬獅郎



さっきからお菓子を勧めてくるのは幼馴染で同期の十番隊副隊長の松本乱菊





乱菊は愛想のカケラも無くなった私にずっと優しく接してくれる


優しくするだけじゃなくて、時には怒ってくれたり相談にも乗ってくれる親友




昔は私の方が若干お姉さんぽくて、面倒見が良くて乱菊のことを気にかけたり世話を焼いたりしてたせいか、良く姉妹に間違われた。


見た目も同じ金髪碧眼で、歳も近かったし何も知らない人が見れば本物の姉妹みたいだった



今では乱菊の方が胸もあるし、綺麗な長髪だから似ても似つかない





私は昔より背は伸びたけど、相変わらず乱菊よりは背も胸も小さいし何より笑わなくなった




申し訳ないとは思っているけど、これは心の病なんだと思うなぁ



どうしようもないよ




その申し訳なさが素直に表に出ないんだもん






「じゃあ私帰るねー。バイバイ乱菊、日番谷たいちょー」


「ああ、ご苦労だった」



「もー、ちゃんと夜は相手してよねー!」


「はいはい、その前に仕事しなよー」

「あんたには言われたくないわよ!」



ひらひらと手を振って部屋を出る


乱菊はムキになってああ言ったけど何時ものことだから気にしない
彼女なりのスキンシップだって知ってるから




あの勢いに気圧されてまた言い返したり、乱菊とギャーギャー言い合ってた頃に戻りたいな、と思ってもやっぱりマイハートには反応無し





ちゃんと動いてんの?
おーい




そう問いかけてみても、返事は勿論返ってこない。



何か虚しくなって、私は大人しく黙って帰ることにした













「ただいまー」


「お疲れ様」


「イヅルはどうしたの」


「何や胃が痛い言うて四番隊行ってもた」


ギンは楽しそうにそういうけど、原因はあんたなんだってこと分かってる?


「そうなんだ、副隊長も大変だね。何であんな一生懸命な副隊長の上がこんな役立たずで怠け者なんだろーね。同情するよ」


「酷いなァ、人を悪者みたいに言うて自分もイヅルの悩みの種の一つやって知ってるん?」


「そりゃ知らなかった、ごめんねイヅルー」



私は真顔で言い放ちスタスタと自席へ戻ろうとする




それを見たギンがため息をつきながら諦めたように


「華てホンマに人に迷惑かけたり、悩ませたり、傷を抉ったりするの得意やなー」



と言った




私は一瞬何を言ってるんだと首をかしげてギンを見た



別にそんなつもりないんだけどなぁ



確かに人の好意を無視したり、さりげなく流したりするのは得意だけれど。



「だって、人のことフラフラしとる言うけど自分だって気づいたらどっか行ってしもて、他人が気にしとること平気で言うてるし、挙句誰彼構わずに声かけるから誤解されやすいやろ?」




意外な発言を聞いて感心した。
そのほっそい目は飾りじゃなかったったのか、と
ちょっと見直した。
今迄バカにしてゴメンねー。




口先だけで、ビックリしたーと言って手を叩く



「よくそんなとこまで見てるね」


「そら、幼馴染で恋人やもん」


自信あり気にニヤニヤしながら言い放つギンに、指摘されたばっかりなのに痛いとこを突く私。




「…その恋人が他の男と寝てるの知ってて何も言わないの?」



これには少し眉が動いたけど、やっぱりキツネは大きくは表情を変えない。


こういうとこ似てるよね、私たち。



「僕も大きな口で恋人や、なんて言えへんからね。大目に見るわ」



「…ありがとう」








礼を言うと、いつの間にか側に来ていたギンは私に口付けを落とした





他に誰もいない部屋でリップ音だけが響く



自然と背中に手を回し、細いくせに男らしい体を確かめる




これにも何か意味はあるんだろうか



まだ日は明るいから、流石の私も先はやらないけどその代わりにもう一度、口付けを求める



「ギン、もう一回」



「わー、やーらし」


茶化すギンを軽く睨めばハイハイと言いながらも、応えてくれる。



「ん…、」




見ての通り、私とこいつは恋人同士
もう付き合って何年になるだろう
十年。…いや二十年は付き合ってるんじゃないかな



幼馴染内で付き合ってるんだから、もう一人の幼馴染の乱菊も気づいてると思う


でもどちらも口にしない


私たち付き合ってるよ、とも
あんたたち付き合ってるでしょ、とも




それが一番良い


別に私たちだって好きで付き合ってるんじゃないから



お互いの求める相手の代わり





繋がってなんかない

好きあってなんかない


心を埋めてくれるだけの存在


それも埋まっているのか分からないほど小さな小さな隙間を




私たちは偽りの恋人



偽りの、ね
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ