夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□夕歩が野良順を拾って持って帰る話
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【夕歩が野良順を拾って持って帰る話】






子供の頃からそうだった。



動物が好きで捨てられた子犬や子猫を見つける度にどうしても拾ってしまって。
体が弱く、特に免疫力が無い私は動物を飼うことなんて許されなかった。
大人になった今でもそれは変わらない。
遠くで眺めるのは大丈夫なのに、いざ近寄って抱き締めるとくしゃみと鼻水。
こんなに……!こんなに好きなのに何で??!!
(恋人に『それはアレルギーって言うの、夕歩』と教えてもらった)
その反応は動物の毛に対して起こる反応みたいだったから毛のない動物を飼おうかとも思ったけど(イグアナとかカエルとか)、………うん、可愛いと私は思うんだけど。
『あれるぎー』を教えてくれた人が断固反対するから飼えなかった。
(『何考えてるかわからない生き物は嫌よ』だって。ゆかりだって偶に何考えてるのかわかんないよ)
……だから、それを拾ってしまったのは自分でも仕方ないことだと思うの。





残業で遅くなった帰り道。
雨が降りしきる中、私は安いビニール傘をさしてマンションまでの帰り道を歩いてた。
…最初にそれを見つけた時、正直ドキッとした。
私はホラーと怪談が大の苦手だから。
悲鳴を上げなかったのは咄嗟に理性が働いたから………では、無くただ単に恐怖で声が出なかっただけ。
……あ、今、馬鹿にした?
じゃあ、想像してみて。
人も通らない真夜中、土砂降り、点滅する電灯の下、段ボール箱に入ってうずくまる影。
………うん、段ボール箱には入ってなかったかな。
入れるとしたら特大サイズの段ボール箱が必要になる。

「…何、見てんの?」

若い……少女とも言える声。
その影に目をこらして……うずくまる影の正体がまだ幼い少女だということに気付く。
なんだか、異様な光景。
こんな雨の中、びしょ濡れで道路の隅に座り込んでる女の子。

「……生きてる?」
「死んでたら話せないでしょ?」

苦笑まじりに答えたから安心する。
あ、とりあえず幽霊じゃないみたい。
ん?でも死んでるのに気付いてなかったら?
自分が死んだことに気付かずに生きてると思いこんでる幽霊だったら?
……………………………とりあえず、塩とかまいとけばいいのかな?

「おねーさん」
「……なに?」

肩あいてるなら乗ってもいいですか?とか聞かれたら、先祖が48人乗ってるから間に合ってます、と答えようと決意する。

「風邪、ひくよ。寒いのに」
「…………………」

薄暗い中でも馬鹿にしたみたいに笑ってるのが見えたからなぜかムッと来た。
ぐいっ!

「お?」

その手を掴んで女の子を立ち上がらせてた。
ちゃんと握れた。
透けることも通りぬける事もなく。
………あ、良かった、本当に生きてる人だった。
今日は塩持ってないからブラックペッパーじゃダメかな?とか思ってたけど。
握った手は平熱の低い私よりも冷たくて。
まじまじと見つめて、色白な肌が蒼白とも言える色になっているのに気付く。

「家、どこ?」

癪だけど、瞳を見つめるには見上げなければならなかった。
立たせたことを後悔して、もう一回座り込ませようかと思案する。
自分より大きな動物を襲うときに大事なのはやっぱり奇襲だよね。

「イエ、ナイ」
「……なんでいきなり片言なの?」
「…補導とか勘弁してよ。お互いに時間の無駄だよ、それ。邪魔になるなら見えないところに消えるし、おねーさんが邪魔するならあたしが逃げる」
「それ、私の仕事じゃないから」

あ、やっぱり未成年だった。
……最近の子って発育いいんだ。
シャツが濡れて肌に張り付いてるから、体型がばっちり分かって………こっそり自分の胸部を確認してしまう。
…………………やっぱり通報しようかな?
だけど、私がしたのは安いビニール傘を差し出すこと。

「…来て」

手を引いて歩き出しながら、心が弾んでた。
この子の餌は何がいいだろう?なんて考えてた。




だって……毛のある動物を飼えるかも知れないんだよ?












END
(11/12/05)

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