夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□夕歩が野良順を拾って持って帰る話A
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【夕歩が野良順を拾って持って帰る話A】










『夕歩?どうしたの、こんな時間に?』
「ちょっと、相談があるんだけど……」
『……………………』







携帯の向こうできっかり48秒の沈黙。
バスルームからするシャワーの音を反対の耳で聞いて。
うん、ノミとかダニがいたら困るからまずお風呂に入れないと。
今回の子は自分でシャワーを浴びてくれるから助かった。
さすがに自分よりも大きな生き物をお風呂に入れるのは疲れる。

『……今度は一体、何拾ったの?』
「ちょっと大きめかな?」
『ついこの間、イノシシ保護してもらったけどそれ以上に大きいモノ?』

あれは拾ったって言うか付いて来られてって言うか…。
イノシシ出没!ってニュースになるよね?
一目見て『…猪鍋って美味しいわよね』と最初に言われた時は別れようかと本気で思ったことは内緒のまま。

「…それよりは小さいと思う」

携帯の向こうで困った顔をしてるゆかりを想像して。
詳細は言わないことにしておく。

『夕歩、飼えないって分かってるんだからもう拾わないの。可哀想って思う気持ちは分かるけど』
「けど、ゆかり……」
『毎回毎回、飼ってくれる人探すのを手伝いのはいいとして。またアレルギー起こしたりしてない?それが心配なの』
「くしゃみと鼻水が出てもゆかりの家に行ける時は幸せだよ」
『………それは私が目当て?それともうちにいる13匹の猫が目当て?』
「13て不吉だからダメだよ。もう一匹増やさないと」
『……夕歩』
「はい」

あ、シャワーの音が止まった。
それからバスルームのドアの開く音。
置いてた着替えわかるかな?

『くしゃみと鼻水くらいならまだいいけど、蕁麻疹出しながらうちの猫と遊んで出入り禁止になったの覚えてないの?』
「最後の方はぼんやりとしか……」
『家に来る度に蕁麻疹起こすから母も心配してるの』
「大丈夫、思い残すことはないから」
『私は嫌よ、そんな……』「おねーさん、これちっさいんだけど?」

話しかけられて振り返る。
……うん、ちっさいね。
予想通りに寸足らずのパジャマを着たこの子はやっぱり綺麗な毛並みをしてる。

「ごめん、それしかないの」
『…夕歩?今の声、誰?誰かいるの?』

…あ。
携帯の向こう側から慌てた声が聞こえたから、そちらに意識を戻す。

「大丈夫、大人しいし人懐こいから」

携帯の向うでまた48秒の沈黙。

『まさか……!一体、何を、拾ったの!?』
「女の子」

通話が切れたのはそのすぐ直後。
不思議そうに首をかしげる女の子に携帯を閉じて大丈夫、という意味で首を振る。
……ゆかり、保健所に連れて行くとか言い出さなければいいけど。

「おねーさんのじゃ小さいし。彼氏の服とか無いの?」
「それでも私のじゃないんだけど、やっぱり小さかったね」

少しはマシだろうと貸したゆかりの服でもサイズが合わなかったみたい。
窮屈そうにしてるから、ソファーに座らせてふかふかの毛を拭いてあげる。

「彼氏いないの?」
「今着てるの彼女の」
「おぅ…」

…あ、名前付けないと。
なぜか沈黙したままの頭を見下ろして。

「ねえ」
「なに?」
「名前ある?」
「……普通あるよね?てか、おねーさん……」
「夕歩」
「え?」
「私の名前」
「…夕歩、いつもこんな風に連れ込んでんの?彼女さん何も言わないの?てか、あたしがやばい犯罪者とかだったらどうすんの?危ないよ」
「犯罪者なの?」
「違うけど。無防備だなー、って」

座ったまま見上げてくるから首をかしげて見下ろして。
あ、この子目が綺麗だ。

「目が合っちゃったから、つい拾っちゃった」
「……おぅ」

また短く呻いて俯くから、首筋を撫であげるとなぜか肩をすくめて逃げようとする。

「…ね」
「夕歩!」

玄関が開いて、凄い勢いで乱入してきたのはうちの恋人。
凄い、今までの最短時間でうちまで来た。

「な!これ!?もしかして、これ拾ったの???」
「いたいいたいいたい!ちょっ!いきなり何!?痛いんすけど!!!!」

ぎりぎりと手を後ろに回されて締め上げられて悲鳴をあげるペットと今にも手錠かけかけない恋人を交互に眺める。

「あなた、名前は?」
「なに!?なんであたしいきなりこんな目にあってんの!!??」
「来るの早かったね、ゆかり」
「て、夕歩も止めようよ!!痛いってマジで!!!!」
「夕歩、何もされなかった?」
「うん、大丈夫。仕事いいの?」
「夕歩が心配で早めに抜けて来たのよ」
「心配しなくてもいいのに」
「……和んでないでへるぷぷりーず!!!!」

とりあえず近所迷惑になるからゆかりに離してもらって。

「名前、職業、年齢」

それでも詰め寄って胸倉を掴んでるゆかりのために紅茶を準備する。

「…久我順、無職、15」
「住所は?」
「……夕歩、この人なに?」
「恋人。名前、順て言うんだ。あ、紅茶ミルクでいい?」

ゆかりと順の分のミルクティーをテーブルに置いて、自分も座ってミルクティーをすする。
うーん、本当は自分で名前を付けたかったけどもう付いてるなら仕方ないよね。

「ゆかり、あんまり乱暴にしたら嫌われるよ」
「夕歩、そういう問題じゃなくて………この人、何で私のパジャマ着てるのよ?」
「……くっ……苦し…ん…すけ…どっ…!」
「ゆーかーり」
「夕歩、これは拾っちゃ駄目なものだから!捨ててきて!!」

ゆかりは手回し良く持参して来た段ボール箱を指差して、やっと手を緩めてこっちを向く。

「…入らないし。それにこれに入れて捨てたら色々問題になりそうだよね」
「車にそれしかなかったのよ」

『県警』の文字の入ったダンボール箱と情け無い顔で喉を押さえる順を見比べて。

「とりあえず、冷めないうちに紅茶どうぞ」

大人しく紅茶を飲むゆかりと順の顔を見つめながら。
それでも、もう私の中では決めていた。


「…ね、ゆかり。飼ってもいいよね?」













To be continued?


END
(11/12/12)

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