夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□夕歩が野良順を拾って持って帰る話B
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【夕歩が野良順を拾って持って帰る話B】




常識のある大人が真夜中にふらついてる未成年見つけた場合、普通はどういう反応をするもんなんだろ?



今のこの世知辛い世の中、素通りが一番多いんじゃないかな?
そりゃ、そこにいるのが幼児とかだったらまた話が違うんだろうけど。
さすがに保護するよね?
だけど、あたしみたいにある程度成長した子供なんて放置するのが一番楽だと思う。
それに声をかけて来たこのおねーさんは凄いと思う。
『飼う』とか言われてちょっとなんか……………今、複雑って言うか………この人、こんな可愛い顔してヤバい人なのかも知れない、とか思ってしまってるけど。




「居たところに返してきなさい」
「もう遅いし可哀想だよ」
「そういう問題じゃないでしょ?」

いきなり部屋に乱入してきて人の首を絞めたおねーさんと飼い主候補のおねーさん。
……なんか、世の中の大人全部が危なく見える今日この頃。
二人のやりとりをミルクティーを啜りながら見つめる。
今借りてるこのパジャマの持ち主らしき美人のおねーさんに睨まれて、おもわず手をあげる。

「はい、あのさ、ゆかりさん」
「なんで貴方に名前で呼ばれなきゃいけないのよ」
「だって、名字知らないもん」
「染谷。あと、年上にはちゃんと敬語使いなさい」

……口、うるさ。
けど、あれだね。
命令口調が決まる系の美人、うん、嫌いではない、むしろ好き。
夕歩みたいに天使みたいな可愛い系おねーさんも好きだけど。

「染谷さん、そんなに怒らなくても明日の朝には出て行くから」
「……え?」

先に声を上げたのは染谷さんじゃなく夕歩の方。

「……出て行っちゃうの?」

……………なんだろ、この人、むちゃめちゃ可愛いんですけど?
悲しそうにされたりしたら、ちょっと……なんか本気で飼われてもいいかな?とか。
むしろ進んでペットになりたい!

「出て行くなら今すぐにして」

……反対に鬼みたいな人が一人。
いや、まあ……夕歩が頭撫でてくれる度にもの凄い目で睨まれてるのは自覚してるけど。

「…出来れば一晩だけでも泊めてもらえると嬉しいかなー、とか。寝るのは床とかでいいからさ」

正直、こんな夜中にまた雨の中放り出されるのはきつい。
あの時はあそこで凍死してもいい、とか思ってたけど。
…………あいつへの当てつけに。

「ベッド、一緒に使っていいよ?」
「夕歩!」

警戒心ゼロの言葉に大声をあげて、なぜか睨む相手はあたしの染谷さん。
まあさ、ちょっとそんな(悪い意味じゃないよ、これ。うん、たぶん……)彼女を持つこの人に同情もしてた。
てか、これってたぶん、あたしを人間として認識してないっぽいよね、夕歩……。

「これを寝室に入れるなら別れるわよ」

諭す言葉が必死すぎて。
もしそこで『じゃあ、別れる』なんて言われたらたぶんダメージ大なのは染谷さんの方だろうなー、なんてまた少しだけ同情して同じくらい愉快だった。

「………それはヤダ」
「夕歩…」

…………………………やっぱ、今すぐ出て行こうかな。
拗ねる夕歩とそれにときめきまくってるのが丸分かりな染谷さん。
なんかね、こう……ラブラブあまあまな二人を見てるとアホらしくなる。
なるほど、バカップルと言われる生き物ってこんな感じなのか。

「…わかった、一晩だけ泊めてあげる」
「……ありがとうございます」

一通りイチャイチャした後、やっとお許しが出た。
てか、染谷さん今すぐにでも夕歩を寝室に持って行こうとしてるし。
いいのか、それであんた達は?
思ったけど口にしない、追い出されたくないし。

「おやすみ、順」
「…おやすみ、夕歩」

また頭を撫でてくれた夕歩が寝室に入っていくのを見送って。
ここで飼われるのもいい気がしてきた。
口が悪くてがさつで愛想も無くて、今頃綺麗な幼なじみと仲良くしてるだろうあいつの所に帰るより…………。

「……て、あれ?寝ないんですか?」

夕歩の準備してくれたふかふかのブランケットにくるまってソファーに転がって、まだそこにいる染谷さんに問い掛ける。

「両手出して」
「は?」

首をかしげて、それでも条件反射のように大人しく両手を出す。

カシャ!

「……?……!?………!!??ちょっ!待った!!これ!!??」
「用心のためよ」
「いや、ちょっ!て、何で目隠しまで!!??」
「用心のためよ」
「て、あの、耳栓までって意味わかないんですけど??何か聞かれたらヤバいことでもあるんすか???」

叫んだけど、返事は無し。
……何か言ったけど耳栓のせいで聞こえなかっただけかも知れないけど。

「そんなに寝室の壁、薄いんですかー!!!………って、いてっ!!」

もう一度叫んだら今度は凄い勢いで頭を殴られたから大人しく不自由な手のまま、ソファーにもう一度転がる。
……て、今のこの状況って凄いよな。
非現実的な状況に苦笑して、ふかふかのブランケットにくるまった。
甘い香りは夕歩のかな?それともあの恋人の?


その甘い香りの中、眠りに落ちながら頭の隅で考えたのは………あの人、迎えに来てくれるかな?なんてことだった。







END
(12/01/08)

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