夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□夕歩が野良順を拾って持って帰る話C
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【夕歩が野良順を拾って持って帰る話C】





ベランダの手すりに寄りかかって、やっと明るくなりつつある空を両腕をさすりながら見上げる。
吐き出した息が真っ白で、煙草の煙を連想させる。
ポケットに煙草を入れておけば良かった……。
わざと大きく息を吐き出して、白く昇っていくそれを見てとりあえずニコチンの欲求を誤魔化す。
携帯で時間を確認して。
もう一度、窓から部屋の中を確認して。
今度のため息は自然に漏れ出たもの。
……仕方ないよな。
一息にベランダの手すりの上に飛び乗って、下を見ればさすがに体がすくむのは今までの経験で分かっていたから(私は忍者でもシーフでもない)そのまま体を反転させて隣の部屋のベランダに飛び降りる。
コンクリートの感触が冷え切った裸足に痛い。
カーテンは開いてたから、そこから覗き込んで………知らないヤツと目があった。
………………手錠はめられてゆかりに抑え込まれてるのは何でだ?

「ちょっ、染谷さん!あたしなんかより、後ろ後ろ!!」

ご親切に叫んでくれたから今度は振り返ったゆかりと目が合う。
小さく手を振って頭を下げて、口元には我ながら情けない苦笑い。

「また?」

窓を開けてくれたゆかりにもう一度頭を下げて、呆れたように言われた言葉に返す。

「…また」





「ここ、8階じゃないの?それ、どこから来たの?」
「うるさい。吠えるなら口輪するわよ」
「うわー、染谷さん虐待反対!」

見慣れぬガキ(たぶん中学生)とゆかりのやりとりを見つめて。
手錠ははめていたんじゃなく、外していたんだと気付く。
なんだ、このガキ?
いや、その前に……。

「なんか温かいモノ貰える?」
「もしかしてまた朝まで待ってたの?」

立ち上がって手早くコーヒーを入れてくれるゆかりの手元を見ながら、震える体を手の平でこする。
この寒い時期にタンクトップとスエットだけで一晩外にいるのはさすがに辛かった。

「寝てたら悪いと思って」
「若いのに変な所で気を使うわよね」
「……その若いは馬鹿にされてる気になるんだけど」

あの人と言い、このお隣さん(正確にはお隣さんの恋人)と言い、大学生は子供じゃないです。
……まあ、確かにまだ未成年だけど。

「はい、良かったらどーぞ。あたしのじゃないけど」

差し出されたブランケットを受けとって。

「………もしかして、ベランダで飼われてたりすんの?」

不安そうに訳のわからんことを問い掛けてくるから、そいつは見ずにコーヒーを持ってきてくれたゆかりを見て首をかしげる。

「ああ、それ。夕歩が拾ってきちゃったの」
「………」
「いらっしゃい、綾那」

思わず絶句した所で、この部屋の主がバスルームから出てくる。
ほかほかと温まった体は今の冷え切った私の体とは正反対。

「おはよ、夕歩。ごめん、またお邪魔してる」
「もう綾那用にベランダの窓の鍵開けてようか?」

笑って言うから、それは危ないからいいと手を振り辞退する。
コーヒーとブランケットのお陰でやっと体の震えが治まると、携帯を取りだす。
……着信が無いってことはまだ寝てるな。

「…………この人、誰?」
「お隣さんの恋人」
「それが何でベランダから現れんの?」
「たまにあるの」

……ペットの質問に頭を撫でながら答える夕歩を眺めるゆかりの顔が怖い。

「昨日はなにがあったの?」

夕歩からペットを引きはがして床に座らせてから尋ねてくるゆかりに昨日の夜の事を思い返してみる…。

 
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