夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□夕歩が野良順を拾って持って帰る話D
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【夕歩が野良順を拾って持って帰る話D】









幸いなのは探し回ってるうちに雨が止んだこと。
あんのクソガキっ!!!!、と怒りにまかせて動き回ってるうちは良かった。
見つけたら本気で張り倒してやる!そう固く固く拳に誓いあいつの行きそうな所を探し回って。
だけど、夜が明けようとしてる今は………

「………どこに行ったんだよ?」

正直、泣き出しそうになってる。






もう一度と部屋に戻ってもあいつの姿は無し。
ぎゃあぎゃあ言いながら出て行った時はすぐに帰ると思ってた。
だって、あいつ携帯も財布も上着も持たずに飛び出したから。
それでも時計の針が深夜に近付いても、玄関の扉は開かないまま。
冷たい雨の中、探しに出たのは………預かりモノだから。
これじゃ、あいつの親父さんに合わせる顔がない。
探しに出たのはそれが理由。
それ以上はない、断じてない。
いや、それは……同居人としては心配してるけどそれ以上はない。
断じてない!
…………って、自分に言い聞かせていたのがそもそもあいつが出て行った原因なんだけど。

「あーもー、あのクソガキ……」

中学生なんて相手に出来るか。
それじゃ、犯罪だ。




もう一度車に乗り込んで、向かったのは紗枝の所。

「はい」
「………お前か」

ドアを開けたのは紗枝じゃなくてその恋人のガキ。
『何が楽しくてガキと付き合う?』
そう問えば
『ガキな所が可愛いの』
そう返ってきた。

「紗枝は?」
「リビングにいますけど」

もう一つ
『染まってない子を私色に染めるのって楽しいのよ』
って言葉がついて来たことも思い出した。
その瞬間、このガキに心から同情したのは紗枝に言ってない。

「あら、玲。いらっしゃい」

リビングでくつろぐ紗枝は朝から風呂上がりなのか、かすかに石けんとお湯の香り。
くつろいだその顔を見てると……自分がどれだけ張り詰めてたのかを実感する。

「紗枝」
「玲、凄い顔。寝てない上に殺気だってるから一仕事終えてきたヒットマンみたいな顔してる」
「からかわなくていいから着替えろ。手伝え」
「あ、やっぱりまだ帰ってないんだ?」

あいつの携帯に入ってたアドレスには片っ端から連絡したけど空振り。

「中学生でしょ?まあ、一晩くらい帰らないことくらいあるんじゃない。玲、過保護すぎ」
「友達のとこにも行ってないのにか?金も無いのに後どこに行く。変なのについて行ってたらどうすんだよ」
「中学生の相場っていくらくらい?」
「やーめーろ、縁起でもないこと言うの!」

頭を抱えてソファーに座り込めば、テーブルの上に置かれたのは甘い香りのミルクティー。

「どうぞ」

愛想なく言って紗枝の隣に座るガキを見つめて。
ああ、こいつ確か最初は紅茶の入れ方も知らなかったはずだ、なんて全く関係のない思考が頭をよぎる。
きっちり、がっちり紗枝色に染まってるのは……まあ、本人が苦じゃないならいいだろ。

「……なあ、お前ならどこ行く?金もなしに夜中に」
「自分ですか?」

ガキはガキ同士、参考にくらい……。

「高く買ってくれそうな所に……」
「んな所まで紗枝色に染まってんなよ、お前は!」

−紗枝色?
と、不思議そうに首をかしげるガキは相手にせずまた頭を抱える。

「無道さんに当たらないの。でも、あの子結構高くは売れそうよね」
「当たらせてんのはお前だろうが。止めろ、マジで止めろ」
「子供と本気で喧嘩するなんて大人げなーい」
「喧嘩じゃない、あれは説教だ」
「同レベルで言い合いしてるならそれは立派な喧嘩よ」
「紗枝だってそいつと喧嘩くらいすんだろ」
「うん、可愛いの」
「「…………………」」

今度は頭を抱えたのはあたしともう一人。
まあ、あれだ。
こいつに敵うと思うな、お子様。
同じ年のあたしでも翻弄されっぱなしなんだから。


「年の差なんて気にしない気にしない。捕まらなきゃオッケーよ」
「そういう問題じゃねー!」
「大丈夫、あの子黙ってたらかわいい顔してるし。上玉よ」
「さっきからわざとか?なあ、わざなのか?なんか嫌な言い方しかしないのは!」
「今頃どこかで拾われちゃってるかも」
「捨ててない、あたしはあいつを捨てた覚えはない」
「使用済みティッシュのように捨てたのよね」
「その喩え止めろ!」
「もしくは今現在使用されてるか…………」
「紗枝!!!!」

本気で腹の底から叫んでやっと紗枝の言葉が止まる。
目を丸くしてんのはポーズで、実際は楽しがってんのはその目を見れば丸分かり。

「体裁とかモラルとか気にしすぎて動かないなんて馬鹿げてると思わない?」

その癖、今度はマジな口調で言うから………ああ、くそっ!

「動かないんじゃなくて…………待ってんだよ……」
「いくつまで?」
「……………二十歳」
「あと、5年。その頃には順ちゃん逃げてるわよ」
「今、無事に見つかるならその時に逃げられてもいい」

あいつに何かあったら………間違いなくあたしは生きていけない。
それはもう色んな意味で。




「…………………………順?」

ぽつり、と。
訝しげな呟きはなぜか予想外の所からで。

「知ってんのか?」
「…もしかしたら、そいつ本当にペットになってるかも」






……それから、あたしが隣に殴り込みに行くのは4秒後の話。







To be continued?


(12/02/28)

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