夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□I kissed a girl
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【I kissed a girl】





…いつも思ってた。
こんなに『いい女』なのに、何でどの男も長続きしないんだろう?って。








「こうやって話を聞いてくれるのは夕歩だけよ」

そう言うゆかりは珍しく酔っぱらっていた。
−お酒付き合って
そのお誘いがある時は大抵、仕事が上手くいかない時か、もしくは恋人と別れた時か。
基本的に底なしのゆかりが酔うのはたぶんアルコールの所為じゃなくて、精神的な理由。
酔ったフリでしか、弱音を吐けない所も『いい女』たる要因。

「…不思議だよね」
「ん?」

確かに。
確かに目元を少しだけ赤くして、上目使いで見つめてくる彼女は『いい女』で。
(他に言い方があるのかも知れないけど、この表現以上に合う表現が思いつかない)

「何でいつもゆかりがふられる側なんだろう?」

こんな『いい女』と付き合えたのなら、その男たちはもっと崇め称えて大切に扱うべきなのに。
だって、この人と付き合える幸運がどれだけのものか今までの男達は誰一人として気付いてない。
学生時代からの付き合いで、交際してきた男たちの大半は把握してるけど何時も何時も同じ事を思ってた。
幸運な男たちを苦い気持ちで見つめてた。

「……それは私に原因があるんでしょうね」

疲れたように笑って、グラスの焼酎ロックを飲み干すから。
(相手によってはこれすら嫌がるらしい。自分の好きな物も飲ませてもらえないなんておかしいよ)

「だけど、ゆかりいつも相手に合わせてるのに」

おかしいのはそこまでしてるのに他に目を向ける男達。
何で?
そんなに愛されて何で彼女をないがしろになんて出来るの?

「……夕歩が怒ってる」

くすくす、と。
焼酎をグラスに注ぎながら(ゆかりがキープしてるボトル。今日はたぶん二本目にいく)笑うから。
その通りですけど?と眉間に皺を寄せる。

「たぶんね、私が夕歩に話を聞いて欲しいのはそうやって怒ってくれる夕歩が嬉しいからだと思うの」
「だってゆかりぐらい魅力的なのにふられるって絶対におかしい」
「だ・か・ら」

やはりアルコールが回ってるのかゆかりはゆっくりゆっくりと区切って言うとまた焼酎を飲み干す。

「私が魅力的なんて言ってくれるのは夕歩だけよ」


それはそうだよ。
だって私にとって彼女はとびっきりの『いい女』。




出来上がった酔っぱらいを自分の部屋に持って帰るためにタクシーに押し込んで。
それでも足取りも意識もしっかりしてるのはさすがと言うべきか。
カクテル一杯でもう頭がクラクラする私とは大違い。
イライラするのは誰に対してか。
自分が付き合った女の価値も分からない男に対してか。
それとも、毎回男を見る目のない友人に対してか。
もしくは………。

「…夕歩」
「なに?」
「いつもいつもありがとう」

もしくは…自分ならもっと彼女を幸せに出来る、なんて思いながら何も出来ない自分に対してか。

「…どういたしまして」
   
   


  
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