夕歩が野良順を拾って持って帰る話シリーズ

□彼女がいない一週間
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【彼女がいない一週間】








ゆかりが出張で他県に一週間ほど行くらしい。




−話があるの……

なんて、重々しい口調で言い出した時には何を言われるのかさすがに身構えた。
別れ話を持ち出されるとは思ってはいないけど、もう動物は飼えないと言われるかもとは考えた。

「出張が来週あるの」
「うん」
「……一週間も」
「……うん?」

頷きながらも首をかしげて。
確かに短くは無いけど、そう長いわけでもない。
まず考えたのは、飼い猫のお世話をその間おばさまだけに頼るのが申し訳ないと言うこと。

「……夕歩はいいの?」
「え?なんで?」
「一週間も逢えないのよ?」
「あ、そっち」
「…………どっちだと思ったの?」

この後、ゆかりにしては珍しく盛大に拗ねて大変だった。
普段、怒ったり拗ねたりしないから私も対処方法がよくわかってないって言うのも大変だった理由の一つ。
(逆はよくあるんだけど)
……珍しい態度をとってしまうくらいゆかりには重大事件だったらしい。






ゆかりの言った通り、確かに一週間まるまる逢わないと言うことは無い。
お互いの仕事が忙しくても(主にゆかりがだけど)、深夜に食事と睡眠だけでもとりにゆかりは私の部屋に現れるし。
(いつも言ってる『だって、夕歩分が不足するの』って言う言葉はどうも冗談じゃなかったらしい)

「朝昼晩とあいた時間には必ず電話とメールするから」
「それじゃ、仕事にならないでしょ?夜だけでいいよ」
「だって、こんなに離れるなんて」
「ゆかり、一週間だから。たった一週間だから」
「夕歩、浮気しない?」
「しないから。しかも一週間で浮気ってどれだけ私信用ないの?」
「だって、夕歩は可愛いから」
「…大丈夫だって」
「変な動物拾っちゃ駄目よ。もし飼えそうにないのをどうしても拾ったらうちの母に電話して。とりに行かせるから」
「おばさまに悪いから。ほら、もう出ないと飛行機間に合わなくなるよ」
「………………もう、いっそ退職しようかしら」
「ゆーかーり、ほーら」

出発の朝。
荷物一式を手に持たせて(私でも片手で持てる程度の荷物しかない。だって一週間だよ?)、玄関まで送り出す。
なんだか不服そうな顔をしながら、それでも時計を見て本当に時間が無いと悟ったのか大人しくヒールを履き鞄を持つ。

「行ってらっしゃい」
「………行ってきます」
「…もう、そんな顔しないの」

少しだけ背伸びをして、行ってらっしゃいのキス。
すぐに離れようとしたのに、耳に届いたのはドサッ…とゆかりの鞄が床に落とされる音。
それと同時に強く強く抱きしめられる感触。
反射的に大きくため息をついてそれでも珍しく(うん、本当にゆかりにとっては重大事件なんだね)甘える恋人に口元が緩む。

「……ゆかり」
「……ん」
「……私も仕事に行かなきゃいけないから」
「分かってる」

もう一度、行ってらっしゃいのキス。
今度は一瞬抱き締めた後に小さく囁いただけですぐに離れるから。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

彼女がいない一週間が始まる。


……て、言うかね、ゆかり。

−いつでも貴方を想ってる……

って、まず大袈裟だし。
あと凄い恥ずかしいし。
それから、それずっと前から知ってることだし。
   
  
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