【4】

□update
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【update】






― 更新しますか?







秋のデートはゆっくりまったりと。
……そうは言ってもうちの恋人はせかせかと一日を急ごうとするタイプじゃ元々無いけど。

「あ」
「『あ』?」
「風船」

急に立ち止まったと思ったら、空を指さすから見上げれば空高く雲と並ぶ青い風船。
こんな感じに猫を見つけたとか、綺麗な花があったとか、可愛い赤ちゃんがいたとか。
そんな事ですぐ立ち止まるから恵ちゃんとデートする時は時間に余裕を持っていないと行けない。
開演時間が決まってる映画やミュージカルとかの時は冷や冷やするはめになる。
…とは言っても、最終的に冷や冷やしてあせるのは恵ちゃんの方で、私は遅れた場合は遅れた場合と割り切ってる。
(半泣きで『…ごめん』なんて言われて私が怒れるはずもない)

「手を離した風船は宇宙まで飛んで行くんだと思ってた」

今も青い風船を見上げたまま、宇宙まで辿り着くのを見届けるように。
足が止まるから一緒に立ち止まって空を見上げる。
繋いだ手を引っ張れば歩き出してくれるのは知ってるけど、それはせず。
(だって、恵ちゃんはリードの先の犬じゃないから)
それに、彼女の言葉一つ一つが秋の日差しにみたいに私をじんわりと温めてくれるから。

「…それ、今でも思ってないよね?」
「ゆーほ、さすがにそれはないよ」

青い風船が消えたのを見届けてからまた歩き出した足に合わせて歩き出して。

「子供の頃の話」
「うん、なんとなく分かる。私も幼稚園の時『大気圏で風船が燃え尽きないのは何故か?』って考察をクレヨンで描いたし」
「……馬鹿にしてる?」
「してないけど」

― 恵ちゃんが可愛いから、つい

付け加えたら本当にご機嫌が斜めになるのは知ってるから口にしない。
真実を口にすると怒られるのは不思議な事実だけど。
…怒ると言うよりも照れている方が強いだけ、ってことも知ってるけど。

「そんなこと無いって分かっててもそれだと楽しいな、とは思うよ」

どんな些細なことでも。
彼女に同意してると示せば途端にふにゃっとした笑顔を見せるから。

「…でしょ?」

……毎日、毎日、『はい』を答えられる自分に驚く。
変化は少しの事でも、もしくは同じ事の繰り返しでも、それだけは毎日更新されていく。


「そして、有刺鉄線に引っかかってしぼんだ風船とか見つけて現実を思い知るんだよね」
「…それ、悲しいね。ゆーほ」
「現実は厳しいって世の中の風船に教えてあげないと」
「風船だって知らない方が良いこともいっぱいあると思うよ」
「だって、小さな子の手から逃げ出して泣かせたんだから少しくらいはリスクを負って貰わないと」
「んー、そうかも」

他愛の無い会話とまた何かを見つけたらしく立ち止まった足に苦笑して。
恵ちゃんとのデートは秋じゃなくてもゆっくりしてる。

「ゆーほ、見て」
「今度は何?」

繋いだ手を引っ張られて行きながら(今はまるで私の方が飼い犬みたい)それでも振り返って私の顔を見つけるとまたふにゃっと嬉しそうに笑うから。
(やっぱり恵ちゃんの方が犬っぽい。ほら、散歩中に犬が飼い主がいるか確認するために振り返るあの感じ)

「……仕方ないよね」

丸っこい後頭部に小さく小さく聞こえないように呟いた。











― 『好き』を更新しますか?

― …はい

















毎日どころか………毎分のいきおいで更新させられる。




END
(12/10/24)

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