【4】

□Our music
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【Our music】



「順の趣味は賑やかすぎるのよ」
「染谷の趣味は眠たくなる」





恋人だからって何もかも一緒なわけじゃないし。
むしろ、違う部分があるからこそ一緒にいるのが楽しいのに。
(話が合わなさすぎるとまた別だけど)
染谷とだって服の趣味も違えば性格も好きな事も違う。
『刀』って言う共通点はここでは染谷以外にも山のようにいる。

「そんなノリノリで迫られても困るのよ」
「じゃあ、眠たくなって途中で寝てもいいわけだ」

あたし達がもめたのは下らないって言えば下らない話なんだけど。
BGMでもめました。
はい!そこで『たかが音楽か』って思った、あなた!
No music No life とまでは行かなくても恋人と一緒に聞く曲ですよ。
お互いの気持ちを盛り上げつつ、尚かつお互いの気持ちを一緒にする為の音楽ですよ?
そんなの重要に決まってんじゃん!
……悲しいことにあたしと染谷さんの趣味ってそこら辺合わないらしい。
(夕歩に話したら『間をとって詩吟とかにしたら?』とか言われたけどそれで雰囲気がでるはずない!)

「だって、あなたキスしてる時にいきなり『Yeah!』とか合いの手いれるし」
「染谷、それ合いの手じゃないし」
「歌詞よく聞いてみたら嫌らしい事言ってるし」
「聞き流そうよ、そこは聞き流そうよ。あたしだって音で聞いてるだけだから」
「とにかく、あなたの趣味は却下よ」
「んなコト言っても染谷の選択は眠くなんだもん」





……まあ、下らないって言わないでよ。
そんなコトでもめたのか?って言われれば『Yeah!』で。
そんなコトで染谷さんとのふれあい広場を逃したのか?って言われれば項垂れるしかない。
(いや、ヤる時の曲でもめたわけじゃないよ。ああ言う時は音楽なんてどうせ耳に入んないし)
そりゃ確かにね、体が勝手に動いてノリノリで踊っちゃってつめた〜い目で見られるコトもありますよ。
染谷にそういうノリを求めても無駄って言うかですね、そんな染谷あたしも見たくないって言うか。
あたしの趣味をけなさなくてもいいじゃん!
……なんて、染谷の趣味を否定したあたしも言えないわけですよ。
染谷が好きだって言ってた曲はあたしにとってはスローテンポ過ぎて眠たくて。
趣味じゃないし、こういう曲は本来好きじゃないし自分からは聞かない。
だけど……

寮の廊下を歩いていればトン、と背中を押されたから振り返って。
耳に付けていたヘッドホンを外して首にかける。

「…何でそれ聞いてるの?」

まだ首の所で大音量で鳴ってた音楽を止めて、それから少し下から見つめてくる瞳を見つめ返して。
聞いてた曲は趣味じゃないし、眠たくなるし、ノリが悪くて……。

「…好きになったから」

だけど、あんたが『好き』って言うから趣味じゃないはずのそれがいつの間にか好きになってた。
仕方ないよ、だってさ、あんたの声で囁くように歌われたらその曲が頭に残らないはず無いんだから。

「………そう」

手に持ったままのiPodを奪って勝手に操作すると彼女は別の曲を流し始める。
大音量のまま首もとで鳴るのはあたしの好きな曲。

「あなたにはそっちの方が似合ってるわよ」
「こっちも好きだけど」

言えば背中を向けて歩き出してしまうから、まだご機嫌ななめなんですね……と諦めの気持ち。
だけど、前を歩く人が小さく小さく歌うから。
後ろのあたしに聞こえる程度の囁く声で歌うから、諦めが喜びに変わっていく。

「……染谷が合いの手いれてるー」
「合いの手じゃないんでしょ?」

あたしの好きな曲に合わせて口ずさむ彼女は振り返らずにすたすた歩いて行ってしまうから、ニヤニヤとゆるみまくった頬のまま追いかける。
趣味じゃなかったんじゃないのー?染谷さん。
そんなの口にしてもただの虚勢って言うか照れ隠しにしかならないから、あたしも彼女の背中を追いかけながら小さく同じ曲を口ずさむ。

「染谷にこの曲似合わないね」
「順にさっきの曲も似合わないわよ」





何もかも一緒じゃないし、趣味が合わないコトだってもちろんあるよ。
だから、無理に合わせるつもりは無い。
だって、そんなのお互いの負担になるだけだから。



「似合わないけど、あんたが好きだって言うから好きになったんだよ」
「…私もよ」





たかが音楽、されど音楽。
けど、自然に同じ方向を見れるなら……それってサイコーに幸せじゃないですか?












二人の曲がもっともっと増えればいい。






















「…Yeah」
「……やっぱ似合わないね」


END
(12/11/10)

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