【4】

□Esmeralda
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【Esmeralda】




それを連想したのは鐘の音から





この学園にいると鐘の音は何時でもついて回るから。
それは祈りの時間を知らせる鐘では無く、戦いの始まりを知らせる鐘ではあるけれど。

― これで満足ですか?

ノートルダムの鐘つき男は塔をおりて幸せだったのか?
『愛情』も『優しさ』も『温もり』も、知らなければ知らないで生きて行けたのに。
塔をおりて知ってしまったが故に、無くした悲しみにうちひしがれる。
悲しい味のキスでも知ってしまった後はまた欲しがって苦しむはめになる。

― ……無道さんは?

満足なはずが無い。
自分でけしかけた癖に怒ったように見つめるから。

― 望んだのは貴方でしょ?

相手に全て押し付けて逃げ出した。
こんな事なら大聖堂の鐘を鳴らすだけで一生を終えていた方が幸せだったのに。


『愛情』なんて知らないなら知らない方が楽なのに。












「…………………………………」
「無道さーん」
「あ?」
「いつもにましてどよーんとしてるけど、何?どうしたの?って言うか、何があったか想像は付くけどその空気どうにかしてよ。話くらいなら聞いてやるから」

高熱の時みたいに霞がかかったような思考は何度振り払っても消えなくて。
たかが、キス。
たかが、唇と唇を押し付けただけでこんな状態になるならきっと初めて夕歩を抱いた後の私は廃人みたいになっていたはず。

「……本当にきちんと聞くか?」

― あんたには関係ない

そう言えば良かったのに自分の口から出たのはそんな言葉で。
今の私は廃人だからまともな判断なんて出来るはずない。

「いえーす、おふこーす」
「最初の方の頃、夕歩、肩に噛みつくクセがあって」
「………………………ほわっつ?」

今の私は廃人だからまともな判断なんて出来るはずがないんだ。

「たぶん、声を出すのが嫌だったんだと思う。背中にしがみつくだけじゃ我慢出来なくてそれで声を堪えるために私の肩に………」
「いやいやいやいや!ちょっ!!待った!!待ったぁ!!」

大声を出しながら無闇に手を振り回してベッドの柵で手を強打してもがいてるお庭番の頭頂部を眺めて。

「なに?」
「『なに?』じゃないし!何であんたと夕歩のエロい話になってんの!?てっきりどっかのおねえたまとの恋の悩み相談かと思ったのに!!」
「きちんと聞く、とあんたは言った。内容については何も言わなかったろうが」
「……何が悲しくて友達と愛しい姫君の濡れ濡れ場なんて聞かなきゃいけないの。だいたいあんたの性欲とか性生活に興味なんて……いや、相手が夕歩じゃなかったら別だけど……とにかく、あんたの性生活なんて聞きたくない!」

軽く咳払いをして、うじうじ言ってるヤツの言葉は無視する。
聞く、と言ったなら最後まできっちし聞け。

「噛まれると痛いんだ。それがまた、痛くて痛くて……」
「そりゃ、痛いでしょ。て、言うか、だぁあぁぁー!想像したじゃん!綾那の馬鹿!嫌だー!夕歩の濡れ場なんて!!」
「やかましい!」







…………ああ、やっぱり、こいつに話を聞いてもらおうなんて事が間違いだったんだ。
    
   
  
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