【4】

□それでもそんなあなたが好きなんです
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【それでもそんなあなたが好きなんです】






「染谷さんにお願いがあります」
「嫌よ」












事の起こりは順の発言から………そして、なぜか今私はにやけた顔の変態と強張った顔の元刃友の部屋に恋人といる。

「…珍しいよね」

ポツリ、と隣にいる恋人が呟いた言葉はここに来る前にも言われた言葉。

― 偶には二人で順達の部屋にでも遊びに行かない?
― ………………………………………何があったの?

鋭い恋人の追求は無視して、不本意ながら今回共犯になった人を横目で見る。
その隣には落ち着きなく正座したままの綾那の姿。
私がいるから、って怯えすぎ。
…そんな顔をされるとますます叱り上げたくなる。

「あー、染谷さん染谷さん、美味しいケーキありますよー」

思ってる事が顔に出てしまったらしく共犯者が慌てて声をあげるから、隣の恋人がますます怪訝な顔になる。
ああ…、本当に何でこの人と手を組もうなんて思ってしまったのかしら。







「即答?即答なの???親友の頼みくらいたまには聞こうよ!」
「あなたと親友になった覚えは無いわよ」
「んじゃ、友達以上恋人未満……って、待った!真剣に話すから待って!行かないで!!」

逃げだそうとしたのにしつこく追いすがって人の腕を掴むから一睨み。
ただでさえ夕歩の側に私以外で一番近くにいるこの人が気にくわないって言うのに。

「お礼はする」
「いらないわよ」
「んー、そんな事言っていいのかなー?超レアな一品なのに」
「あなた、これ……」

……まあ、『お礼』につられた私が悪いと言えば悪いのよね。









話しは現在の順&綾那の部屋に戻って。

「はい、夕歩」
「……………なに?」
「ケーキ」
「……それは知ってる。何で私に食べさせようとしてるのか聞いてるの」

行き先を失ったフォークは彷徨った後、仕方なく私の口の中へ。
ん、美味しいけど。

「…二人きりの時は何時もしてるじゃない」
「ゆかり?」

嘘は言ってないのになぜか語尾をあげて名前を呼ぶ夕歩から視線を逸らして。
それからフォークを持っていない方の手でさりげなく小さくて可愛い手を握る。

「……ゆかり」

……さりげなくは無かったみたいで今度は彼女にしては低いトーンで名前を呼ばれる。

「いやー、ラブラブだよね、染谷と夕歩。うんうん、あたし達も見習わないとね、無道さん」
「あ?」

たった一音なのに綾那の感情がよく伝わってきた。

『アホか、あんたとそんな事出来るから、だいたい見習うも何も私とあんたはそういう関係じゃないし、ここにゆかりがいる理由もわからん』

それは順にも伝わったみたいで(順は順で『することしといて何がそういう関係じゃないだよ』なんて考えてるのがわかった)情けない顔でこっちを見るから夕歩にバレないように口の中でだけため息をつく。

「…夕歩、付いてる」
「ちょっ!自分でとれるし。だから、なに?どうしのた?」

夕歩の唇に付いたクリームを指先でぬぐって(繋いだ手を振り解こうとされたけど逃がさない)そのまま指についたクリームを自分の口へ。

「ゆかりっ!」

夕歩は二人きりなら通常営業の事でも人前でやるのには抵抗があるらしい。
……違うの。
私もよ、本当は私だって人前でこんな事する趣味はないの。
ここじゃ、そのままキスしたり押し倒したり出来ないし!

「何時もみたいに唇でとった方が良かった?」
「……………」

確かに。
確かに夕歩の唇は何時でもキスしたくなるくらいに可愛くて美味しそう。
それに付いては自信を持って言えるの。

「…………ゆかり」
「なに?」
「…………順」
「はい、なんでしょう?」

世界で一番愛しいお姫様(不満だけど順にとっても)が無言でドアを指さすから順と二人で顔を見合わせて。

「ごめんね、綾那。少しだけ待ってて」

大人しく夕歩に補導されるはめになった。








「……で?」
「「はい」」
「二人して一体なにを企んでるの?」
「順が…」
「ちょっ!そこであっさり裏切んの!染谷!」
「だって、あなたより夕歩の方が大事だから」







『お願いがあります』
そう言った順のお願いは呆れる内容で。

「あたしと綾那の前で夕歩とイチャついてください!」
「…は?」
「あの人、あたしとイチャついたりしてくれないからさ。目の前で他の人がイチャつけば少しくらいその気になるかも知れないじゃん!」
「それ……本気?」
「いえす、もちろん!あたしだって人前でイチャついてみたい!」








「…失敗だと思うよ、それ」
「私もそう思うわ」
「うわー、これ幸いとばかりに夕歩に擦り寄ってた人が平気でそういうこと言う!?」
「あなたに言われなくても私は夕歩とイチャつきたくなったら、何時でもイチャつくわよ」
「真顔だし!この人真顔だし!」

「と・に・か・く」

夕歩の声は何時でも耳に心地よくて私の心を簡単に支配する。
……こういう怒った時の声も同じく。
順と二人して背筋を伸ばして夕歩の顔を見つめる。

「今回だけは協力してあげるから、こんな馬鹿なこともう二度としないで」

「「…はーい」」












…結論だけ言うと綾那がその気になったのかは全く不明で。
綾那がそうなるより先に順が鼻血を出したのと、私に火がついて慌てて順達の部屋を出る事になったから順の企みがうまくいったのかは謎のまま。







………その気になったお姫様は私達が思いも寄らないくらい大胆な行動に出るって言うことを思い知るいい機会になったわ。




















「…夕歩、あれは大胆すぎ」
「二人でいる時にしてる事、しただけだよ」
「そうだけど………」









END
(12/12/25)
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