【5】

□In Your Eyes
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【In Your Eyes】



『馬鹿みたい』とか言われてさ。
嬉しいのはあたしの性癖のせいじゃなくて、どこまでお堅いの?って彼女の言う『馬鹿』には愛がこもってるから。






耳からうなじにかけてのラインに見惚れて。
以前ならこんなにはっきり見えなかったラインをガン見出来るようになったことには…まあ、感謝してるけど。

「…あなた、意外に顔大きいのね」
「いや、ゆかりの顔が小さいんだと思う」

あたしに半分背を向けて、この二人が自分の部屋で仲良く話してる事実がなんだかこー…ナチュラルに授業受けてる教室の中にミランダ・カー混じってるくらいの違和感。
いや、別にミランダ・カーのファンでは無いけど。

「見えにくいわね」
「まあ、度が合わないだろうし」

綾那の手が伸びて、染谷の頬に触れそうになるからムッとしてその間に割って入ろうとしたのを止めたのは人の親友の眼鏡を借りてる人。

― どう思う?

なんて聞かれたってそんなのあたしの答えなんて決まってる。

「眼鏡の染谷ってエロさ増すね」
「…あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」

たぶん『馬鹿』なのは染谷じゃなくてあたしの方。








「だいたいが綾那の眼鏡が染谷に似合うわけないじゃん」
「試しにどんな感じなのかを試して見たかったのよ。あのゲームバカの人の眼鏡じゃ私には合わなかったけど」
「そりゃーね。あんたに綾那のモンは似合わないよ」
「それ言うの二回目よ、順」

ゲームについては馬鹿だと言われる人は、それでも賢くあたしと染谷の間に割り込んでこようとは絶対にしないから。
今だってあたしと染谷が言い争いになる前にさっさと自分の部屋に帰って行ったし。
一緒の部屋にあいつがいない違和感は変化になれないあたしの心のせい。

「眼鏡はやだ、使うならコンタクトにしてよ」

左の目だけ視力の悪い彼女が何を思い立ったのか、綾那の眼鏡を奪いだすのを口を開けて見ながら。
頑なに変化を受け入れられないのはあたしだけなのかも、なんてね。
だって、あんな風にじゃれる染谷と綾那を見るのは久しぶりで。

「ご心配なく、眼鏡なら今のところ作る気は無いから」

こっちを向いた時に、あたしの方を向いた時に見える瞳は前から知ってるあの澄んだ瞳なのに。
唇が歪んだのは、これまた、何時までも変化を受け入れられないあたしの心のせい。

「いや、エロいしさ。フレームちゃんと選べば染谷に似合うやつもあるだろうから眼鏡のことはいいんだけど……」

前なら隠れてた耳からうなじのラインを前から見つめて。
一番、目立つそれから目を逸らしてんのは……はいはい、あたしの心ですよ。
1K風呂・トイレ共同のせっまーーーいあたしの心のせいです。

「『けど』?」
「…あたしだけが見れるのが特権だと思ってたものが丸出しなのはなんか気にくいません」







「あ、乳房の話じゃなくてね」
「それの話だったら私怒るわよ。それにその呼び方どうにかならないの?」
「キュートなヒップの話でもなくて」
「私が丸出しで歩いてるみたいな言い方しないで」

あたしの好きな澄んだ瞳が呆れたように細められて、それと同時に左目の下の傷もまるで笑うみたいに動くから。
変化になれない、なんてさ、ただの言い訳だって自分でも分かってんだけど。
髪型が変ったのも制服の色が変ったのも、中身が一緒なら全く問題は無いのに。

「……ほんとに馬鹿よね」

ほら、手馴れた仕草であたしの頬に手の平で触れて。
ほら、何時もの動きであたしの額に自分の額をぶつけて。
…ほらね、キスしてくる時に一度指先で唇に触れる癖だって何もそこには『変化』なんて無いのに。

「…やっぱり、馬鹿ですか」

ずっと人の目から隠していた傷は染谷にとって大切なモノだったから。
あたしにだって大切なモノだったのに。
それを隠さずに見せてくれるあたしは特別だ、なんて変な優越感に浸ってしまったのは……仕方ないよね。

「馬鹿よ。あなたしか見れないものなんて他にもたくさんあるのに」

ん、そうかも、
確かに、そうかも。
この唇が触れる距離で笑う彼女の美しさはそりゃーあたしが一番知ってるけど。
この距離じゃないとわからない染谷の香りも、ね。

「乳房とかお尻とか秘密の花園とかの話ですね」
「そういうのなら夕歩でも綾那でも見たことあるわよ」
「性的に濡れてる状態では見てないと思うけど」
「見たことあったらそれこそ大変でしょう」
「うん、大変。その時の状況をそのままあたしの目の前で再現していただきますから覚悟しといてよ」
「馬鹿」

また言われた『馬鹿』に少しだけ、砂糖少な目のコーヒーくらいに笑って返して。
頬に触れれば、愛しい傷に触れれば、呆れたように、そして愛しげに、目を細めて微笑み返してくれるから。
あたしだけって、さ、だって特別な気がして。

「私も…」
「ん?」

澄んだ瞳に映る自分の下手くそな笑い顔を見つめながら。

「あなたの瞳に映る自分の姿に違和感を感じなくなったのは最近よ」
「そう?どんな染谷でも最高にキュートで最高にアメージングだけど」
「最高に馬鹿っぽい褒め方ありがとう」
「どういたしまして」

自分だけのモノだ!って思っていた傷に唇を押し付けてみて。
確かにこんなことが出来るのはあたしだけ、って優越感に今度は浸ることにする。
こんなに可愛い彼女のこんなに魅力的な傷にキスで出来るのはあたしだけだ、って。
染谷のこの澄んだ瞳に一番映っているのは今はあたしなんだ、って。

「……もしくは、あなただけのスペシャルなメニューでも作りましょうか?」

その『スペシャルなメニュー』なるものに書かれるだろう項目を想像してみて。
染谷の唇かわいい、なんて脈略のないことを考えながら短くキスを乗せて。

「……メニュー出来るまで我慢出来ないんで今からフルコースお願いします」

なんて、言えばまた呆れた顔をして。
それでもあたしの胸倉を掴んでキスを強請るから。
…また、言われるかなー、なんて。

「…本当に馬鹿なんだから」
















あたしにぶつける愛のこもった『馬鹿』だってあたしだけの特権なのにね。























「よくよく思い出したら、あなた髪型変えた時も白服に変った時も『これ、そそるね!』とか言いながら凄い勢いで私の服脱がしてたじゃない」
「それが心と体の違いってやつですよ、染谷さん」






END
(13/10/31)

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