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恋人同士が『2人』までなんて……誰が決めたんだろう?










― いやいや、姫、それが世間一般的にはお約束らしいですよ。確かに上級者になるとそれ以上の人もいるみたいだけど

― 『2人』以上の恋人ってあまり聞かないわね


私以外の『2人』が言うことなんてすぐに予想がついて。
それを決めた人の心は狭かったんだよ、なんて心の中で反論してみる。
だって、恋人同士が『2人』までなら、私達みたいな関係はどうすればいいの?



「…どうすればいいと思う?」
「………で、恋人の定員数についてを夕歩は考えてた、と」

呆れたように眼鏡の下の眼を細めて。
『4人目』はだけど『3』の中に入ってこないと知っているから、こうやって無防備に質問することが出来る。
…『3』も『4』もあまり変らない気もするけど。

「見事に矢印が一方通行ばかりなんだけど」

順とゆかりと私。
『1』『2』『3』
わざのように声に出して数えて、まだ眼鏡の下の瞳は困った色のまま。

「綾那はキスしたくなったらどうするの?」
「『答えたくない』は却下なんでしょ?」
「無理強いはしないよ」
「承諾を得て、それからする」
「付き合い始める前だったら?」
「…同じ。承諾を得て、それからする」

矢印がお互いの方向を向いているなら、そんなストレートなやり方でもいいのかも知れない。
むしろ、それが『一般的』な恋人同士かも知れない。

「ゆかりは順が好きで、順はあんたが好き。で、あんたは……」
「…ゆかりが好きなの」

歪な三角関係に気付いたのはわりと以前から。
あの2人は不思議なくらい、まるで真正面にいる人しか見えていない人みたいに、この歪な三角には気付かないまま。
…実際に見えていないのかも知れない。
順には私しか見えていないし、ゆかりには………順しか見えてないのかも知れない。

「とりあえず、私はそこに不参加で良かった」

3人で並んで椅子に座って同じ歌を歌ってるのに、みんな全く違う所を見つめていて。
もしかしたら、その不協和音は外れて立っている綾那が一番良く聞き取れるのかも知れない。

「夕歩」

もし。
もし、なんてきっと考えても最後が同じなら何も変らない。
だけど『もし』私の好きな人が違う人だったら。
だけど『もし』私を好きな人が違う人だったら。
…こんな事にはならなかったのに。

「恋人の定員数なんて自分で決めたら?」

乱れた音でもいい、と。
調律を頼んだはずの人までがそう言うから。

「『私』と『貴方』がいいなら、そうすればいい。1と2がいいならそうすればいい。
…そこに足して『3』にしたいなら、あんた達が望むならそうすればいい」
「綾那は『3』でもいいの?」
「あー………」

眼鏡の下の瞳がますます困ったように細くなって。
友人の目を真っ直ぐ見つめたまま、それでも唇が笑みの形になるのを見届ける。

「…あの人ならやりかねないし、望むなら仕方ない」
「……恋人って面倒くさいね」
「だから、私の所は定員数が『2』のままなのかも」






恋人が『2人』までなら、先着順に決まるの?
誰が誰をどれだけ好き、なんてセンチでもマイルでも測れないのに。
だったら、どうやって優先順位をみんな決めてるの?




優先順位なら、そんなの、私の中に、あって。
だから、私は奪えずに与えることも出来ずに選んだんだから。

「………っ!!!?」

……訂正。
順のファーストキスなら、今奪った。

「なっ!な、な、な、ん、な、なぁっ!!??」

……うるさいなー。
真っ赤になったまま『なーなー』言ってる順に背を向けて、唖然としている人の顔を見つめる。
睨まれるかと思えば、左眼の下の傷を歪めて泣きそうな瞳をするから。
ゆかりの優先順位を考えてみる。
だけど、人の優先順位なんて知らないし分かりもしないから。

「ゆかり」

それでも、何でも無い風を装って。
自分の意思だとバレるのは嫌だから。
だって……。

「…はい、順と間接キス」
「!?」

届けたキスに込められた別の意味は気付かないで。
ああ…、私の優先順位なんてそんなの知ってるし分かってる。
ただ、ただ、どっちにも傷ついて欲しくなくて。
それと同時に自分の欲しいものも失いたくないなんて虫が良すぎるのは知っているけど……。

「なぁぁぁぁぁっ!そそそそ染谷と夕歩がっ!!」
「うるさい、順」
「だ、だって!」
「ゆ、夕歩!?」
「ゆかり、順を黙らせて」

とん、と背中を押しただけのはずなのに『2人』の距離はあっさり縮まって。
縮めた理由は誰の望みで意思なのか。


「「……夕歩と間接キス」」


順とゆかり、綺麗な協和音を綾那に聞かせてあげたいと思いながら。
聞けば眼鏡の下の瞳がどんな色をするのか。
だけど、どんな色でもきっと。
だけど、どんな音でもきっと。

「順」

……3人分の背中を支えてくれると信じてるから。

「ゆかり」

キスをする時には先に尋ねるのがルール?
だけど、尋ねてキスしたい理由を聞かれれば上手に答えられる自信が無いから。

「…恋人って『3人』でもいいと思わない?」

無茶苦茶だ、とか。
ありえない、なんて言葉は吐き出される前にどっちの分も塞いでおいた。





『1』『2』『3』
数えてみて。


…ね、悪くは無いと思わない?












『私』と『貴方』だけなんて言わないで











「…いや、まあ、多い方が楽しめるとは思いますけど」
「いきなり卑猥な想像しかしない所があなたね」
「いやいや、誰が3ぴの話してんの。デートとかの話ですよ、染谷さん。もー、染谷さんたらエロいんだからー!」
「…っ!あなたが言うと何でも卑猥に聞こえるのよ!」
「えーえー、夕歩とがっつりチューを楽しんでた染谷を観賞するくらいには卑猥な人間ですけどね、あたしは」
「あなただって私に『夕歩の味がする』とか言いながら舌入れて来た癖に!」
「きっちり、応えてた人が偉そうなこと言わないでよ!」
「あなたがしつこいからでしょ!」
「だって、染谷の唇もストライクだったんだもん!」
「なっ!何言ってるのよ!」
「夕歩もあんたも選べないし!」
「私だって選べないわよ!」





「……3人てベッド、狭そうだね」

「「ゆ、夕歩っ!!??」」






END?
(13/12/26)

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