【5】
□My life would suck Without you
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【My life would suck Without you】
私は誰の人生にも必要とされてないのかも知れない。
自分でもマイナス過ぎる思考も幼馴染なら、ううん、それ以外の人だって私は必要だ、って言ってくれると自惚れてはいるけど。
そんな思考になるのは深夜の喧嘩のせい。
喧嘩と呼んでもいいのか定かじゃなくて。
「あんま…」
ああ、怒らせた、って。
怒らせたかったのに、怒らせた時点で後悔していた。
「…あんま調子にノってっと知らねェから」
ドンっ!と荒く荒く閉められたドアと脱がされたままの服と。
ぽつん、と忘れられた靴下と。
(裸足で帰ったのね)
受け入れて欲しいから、と挑発して我侭を言って挑発して怒らせて。
そうすれば突き放される、分かっているのにそうしてしまうのは、きっと。
いつか突き放される前に、自分が身構えている時にそうして欲しいから。
…私は誰の人生にも必要とされてないのかも知れない、って本当はそうじゃなくて。
私はきっとあの人の人生に、必要とされてないから。
「……仕方ないわね」
嫌な気分になった、と。
昨夜のことは忘れて、忘れられた靴下のことも忘れて。
だけど、部屋を出ても行き先なんて無くて。
誰の所にでも行けるけど、誰の所にも行きたくなくて。
怒って出て行った人が自分のドアの前に立って『ごめんなさい』を言ってくれるのを待つのは嫌で。
歩き出した足はそれでも人気の無いほうへ。
「抱き合うだけなら…」
誰もいないからと唇を尖らせて呟いてみた言葉は震えていて。
「…それだけでいいのに」
何時ものように笑って、そう言えるようになるまで誰にも逢いたくなくて。
自分に言い聞かせて言い聞かせて言い聞かせて。
そう思い込んで、彼女にもそう伝えられるように。
なのに……。
「祈ッ!」
怒鳴るような呼び声は遠くの方から。
まだ言い聞かせ終わってないのに、制服のスカートなんてお構いなしに走ってくる長身の影に思わず走り出しそうになったのに。
…なったのに、足が動かなくて。
「…っアー、探したぁー」
荒くなった息と額の浮かぶ汗を見上げて。
紅潮した頬や首筋に浮かぶ汗を見つめて。
「……ったく、人が用があン時は姿消しやがる」
探された、という事に、それだけで、言い聞かせ損なった心が崩れ落ちる。
「…私は斗南さんの人生に必要?」
「はァッ?」
「私は、貴方の、人生に、必要?」
「ンな日本語分かンねーヤツに質問にすっみたいに聞かなくても質問の意味は分かってるって」
グイッ、と乱暴に制服の袖で汗を拭って。
だけど、私はまだ笑えないまま。
だって、まだちゃんと自分の心に私は言い聞かせ終わってないから。
「…昨日は悪かった」
「斗南さん、靴下忘れて行ったわよ」
「ン、部屋ついて気付いた」
「どうせ、忘れるならブラジャーとか」
「アンタのそのシュミの悪ぃ冗談はアレだな、癖だな」
「質問に答えてくれないから」
「待て、って」
手の平を突き出して質問に対する答えはくれないから、期待はしないまま。
そうしない方がいい、と思い込んで。
「息整える時間くらいクれって」
「走ったりするから」
「テメエのせいで走ったンでしょーが」
大きく息を吸い込んで、困ったように唇を下げて。
「…アンタがいなきゃあたしの人生クソみたいだ」
……ありがとう、とそう答えたかったのに声が出ないのは。
下がった唇が震えて、声が出なくて。
「…祈?」
それでも唇を噛んで誤魔化して。
また一つ、突き放された時に辛くなるのに。
こんな言葉を貰ったら、離れられなくなるに決まってるのに。
「……私達」
「ン?」
「…抱き合うだけでいいのに」
「…ン」
ポスン、と寄りかかった体は湿っていて熱くて。
額を押し付けた肩も頭頂部に触れる唇も熱くて熱くて。
…その熱さに逆上せてまともな思考なんてドロドロにさせられる。
「だけど」
髪を撫でる手が優しいのも、私を支えてくれる体が優しいのも、耳元で聞こえる吐息が優しいのも。
それは、彼女が、私を……。
「私の人生、貴方無しじゃつまらないわ」
私を愛してくれているからだ、って。
そう知ってはいるのに。
「…ンなことだろー、とは思ってた」
END
(14/03/20)