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□Splash
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【Splash】





わざわざ明かりを暗くして。
食い入るようにテレビにかぶりついてるルームメイトをベッドから見下ろして。
眼鏡に反射する映像は夕歩や増田ちゃんあたりが見たら卒倒しそうな映像。
うっわ……グロ……。
あたしだって苦手じゃないけど、これはグロいって。
古くさい画像の中、それでも内臓や血液の色は鮮やかで。
……しばらくレバー食べたくなくなるな、これ。

「……おもしろい?」
「まあまあ」

気のない返事、だけど目を見れば綾那が楽しんでるのは一目瞭然。
そのさー、グロいスプラッター観て目をキラキラさせんの止めないかなー?
ベッドから飛び降りてその隣に座り直すとあたしもテレビの画面に視線を向ける。

「……これ、前にも観てなかったっけ?」

画面の中の娼婦の肉が大福みたいに無惨に伸びてちぎられるのを観ながら問い掛ける。
確かこれ観たぞ、その時にこいつ大福食べたくなったとか言ってたような…。
最後まで観なかったから、ラストはどうなったかまでは知らないけど。

「…レバニラ食べたくなった」
「やーめーろって…」

今度はレバニラかよ。
そーいや、こいつ人の肉ミンチにして食べてるシーンでハンバーガー食べたいとかほざいた事もあったな…。

「お腹空いてんなら、何か食べる?」
「いや……腹はへってないけど食べたくなっただけ。……これ気に入ってんだよ」
「ん?この映画?」

なるほど、だから何度も観てると。
精神衛生上よくないんで描写は避けますが……これが気に入ってんのかい、あんた…。
時代が違えばあたしはお庭番、んでこいつはきっと辻斬りだ。
血が見たいだけで人斬りまくるあっぶない奴。
うん、これには自信がある。

「あったかそうだな…って」
「は?何が?」
「内臓とか血とか」
「………あれは作り物です、綾那さん」
「知ってるか?」
「何が?」
「古い映画の血糊って本物っぽく見せるために水飴とか入れてたって」
「……そーなんだ」

あー………、やばいなー。
そこで思い出した、前回この映画最後まで観られなかった理由。

「……あれ、舐めたら甘いかな?」
「甘いかもね」
「今も水飴入れてると思う?」
「さー、あたしは最近の血糊事情には詳しくないんで」

綾那は画面から目を離さない。
少しだけ惚けたような顔をして赤く染まった画面を見てる。
後ろに移動して背中を抱き締めても反応なし。
振りほどきもしないし、拳も飛んでこない。
……こういうの観てる時のこいつに色気を感じるあたしっておかしいのかな?
調子にのって首や耳にキスしてもこいつは画面を見つめたまま。
「綾那……」
「っ……ん…」

さすがにそこに手を入れたら反応した。
だけど、まだ前を見たまま。
画面では殺人鬼が血まみれになりながら内臓をえぐり出してるところ。

「……これ見て濡れてるあんたってかなりの変態だよね」

耳元で囁いても反応は無くて、指をそのまま奥まで進めても抵抗すらしない。

「あんたのここの方が熱いと思うよ…」

息苦しそうに息を吐いて、体を支えるのが辛くなったのか。
それとも、感じるには体勢がきつかったのか。
背中がもたれ掛かってくるから肩で受け止めてやる。
きつくて動かせないから、指をばたつかせて。
綾那の髪の香りを嗅ぎながら、こいつの目が真っ直ぐに血まみれの画面に向いてるのを確かめる。
少しずつ、だけど確実に追い詰めて行きながら。
もう原型を留めて無いそれを見ながら……確かにあったかくて気持ちよさそうだ……なんて。
今、指で触れてる所とどっちが気持ちいいだろう?
血や内臓にまみれるのと、あんたの中に入れるのと。
違いはどこにあんだろう?
……なんて、危ない思考はきっとこいつの所為。








「…この映画って結局最後どーなるの?」
「知らん」
「あんた、この映画好きって言ってなかった?」
「グロい所が好きなだけでストーリーには興味ない」
「うっわー、あんたあの映画の脚本家に泣かれるよ」

いつの間にかビデオは(このご時世にこいつが観てたのはビデオでした。どんだけ古い映画持って来たんだよ…)最後まで終わり巻き戻しまで終わってる。
ベッドに移った後くらいから観る暇無くなったし。

「…あんただって濡れてんじゃないか」
「あたしが欲情したのは血まみれスプラッターじゃなくてあんた。そこら辺は勘違いしないでよね」
「してる時に耳元で『確かにあったかくて気持ちよさそう……』とかほざいたのは誰だよ」

あー……声に出ちゃってましたか。

「……てかさ、お腹すいた」
「レバニラ食べに行く?」
「それはさすがに嫌」
「じゃあ、ホルモン焼き」
「……なんか余計にグロ度があがった気がする。しかも、女子中学生が二人で食べる食べ物じゃないし」

起き上がって脱ぎ散らかした服を拾って身に着けていく。
あー、なるほどそういう事か。

「……性欲と食欲は紙一重」
「は?」
「いや、似てるでしょ?」
「スプラッターとセックスは似てる」
「……それはどーかと思うよ」
「同じ映画の同じような場面で人を押し倒した奴がよく言う」
「う……」
「最後まで観られなかった理由はあんたにもある」
「妙な色気出すあんたが悪い」
「だから、言っただろ?」
「何が?」
「スプラッターとセックスは似てる」
「……もー、それでいいよ」








END
(14/08/28)

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