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□久我順はかくも語り
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【久我順はかくも語り】




あいつはだいたいそんな奴なんだ。何がなんて聞かれても分かんないけどさ。
そうだよ、やっぱりそうだ。無道綾那って奴はそういう奴なんだよ。
いや、別にあたしはあいつの事嫌いじゃないよ。むしろ、好き。
って、こんな事言うとまた『この淫魔が!』とか怒られるんだろうね。本当の気持ちなのにさ。
まー、もちろんLOVEじゃないよLIKEだよ。綾那は友達だし。
…って、一体なんの話しをしてたんだっけ?
ああ、綾那がどんな奴かって事だったね。んー…、一言で言えば『人の大事な者ばかり奪っていく奴』。
ちょっと、違うな。ああ、こう言えばいいのか『あたしの欲しい者全部手に入れた奴』
ほんと、世の中不公平だよ。何でさ、毎日毎日気配り・真心宅急便の順ちゃんじゃなくてあんなぶっきらぼうで愛想の無い奴がいいのよ?あたしの方が愛嬌も優しさも胸もあるって。…有り余る愛もね。
誰に対する愛なのかはあたしと綾那が出会った頃くらいに話しを戻さなきゃいけない。






話すと結構長くなっちゃうから、手短に話すことにする。…できるだけね。
綾那はクラスメートでルームメイト。出来たらあたしはその相手は夕歩が良かったんだけど世の中そんなに上手くは行かない。
あたしのルームメイトになったのは何だか少年みたいな眼鏡っ子だった。とにかく、あたしと綾那は必然的に24時間一緒にいるわけで嫌でも仲は良くなる。
その流れで自分の刃友を紹介するのは当たり前の事で…。
あたしと夕歩・綾那と染谷の関係はよく似ていた。お互いに幼い頃から一緒にいる幼なじみで入学する前からお互いを刃友にする事を決めてた。
染谷の第一印象は……なんだったかな?あんまり憶えてないや。
たぶん、『へー、綺麗な子』とでも思ったんだと思う。染谷とはあたしよりも夕歩の方が先に仲良くなったし。
今、思えばあたしはあの時から気づいてたのかも知れない。
染谷を『ゆかり』って呼ばない方がいいって。いや、そんな事無いか。だって、あたし犬ちゃん達と違ってそんな能力無いし。淫魔って言われても実生活に役立つスキルは中々無いんだよね。
『ゆかり』じゃなくて『染谷』って呼んだのはそれがなんとなくしっくりきたから。
最初はさ、友達の刃友って地位だったんだ。んで、それがランクアップして何だか気になる人になって……好きな人になるのに時間はそんなかからなかった。
天地では結構刃友=恋人って人が多い(あたしと夕歩は違うけど。また、あたし達は事情も事情だし)。綾那と染谷ももれなくそれ当てはまる人たちだった。
一度なんてばっちりその現場を見てしまった事がある。
部屋に戻って鍵がかかってなかったからそのまま部屋に入って…。
あれは本当に永久保存版っすよ、はい、マジで。すぐにドアを閉めたから見た時間なんてほんの数秒なんだろうけど、ばっちり順ちゃんメモリーに登録されてます。
染谷、おもっいきり綾那の上に乗ってたもんなー………。
うん、染谷は意外に着やせするタイプでした。そりゃ偶に大浴場で一緒になったりする時もあるから染谷の裸なんて拝見済みだけど、ああいうときの裸って全然色気が違うのよ。
何て言うかな、こう……紅潮した肌とか汗で光る鎖骨とか揉みがいの在りそうな胸とか。(綾那とか夕歩はあんまり無さそうだけどね。あ、あたしは普通よりちょっと染谷よりかな)
スレンダーだけど出るところ出てる染谷の体はマジで鼻血出すかと思った。
気づいたのは後からだった。
終わったのを見計らって部屋に帰って綾那をからかってる時。笑ってるのに何だかすっきりしない。胸が苦しい、動悸、息切れが…。
って、救心飲めよってお決まりの突っ込みは無しにしてね。
最初はやばい発情したか!とも思って焦ったけど。綾那の着替えを見ても救心を飲まなきゃいけないような症状は出なかったから(まー、それはそれで楽しんだけど)発情期ってわけでもなさそうだし。
それが染谷といる時にだけ発症するって気づいたのはそのまた後日。
あー、もう、我ながらなんて鈍感。気付よ、お前!って自分で突っ込みたくなる。
ええっと……すんません、手短にとか言っておきながら全然短く無いっすね。
じゃあ、今度こそ結論を『私、久我順は染谷ゆかりに恋してる』と。
いくら手短って言ってもこの一言だけじゃ何も始まらないでしょ?
ああ、言い換えればこうなります。『友達の恋人に惚れた大馬鹿者の久我順です』
ほんっとに、あたしは昔から厄介な人しか好きにならないんだから。









…話しついでにあたしの初恋の話をしよう。



まあ、お察しの通りあたしの初恋の相手は現在の刃友、マイスイートハニー、可憐な静馬家の姫君夕歩だったりする。
そりゃー、さあ。小さな頃か一緒にいてあんなに大事にしろって教え込まれて…しかもあの犯罪的な可愛さ。いや、マジで夕歩の可愛さは犯罪的っすよ。
好きにならない方がおかしいでしょ?子供心ながらに夕歩の笑顔にドキドキしてたりしてたんっすよ。この子の為にあたしは一生つくすんだー、なんてね。
まあ、それは大きくなった今もかわらないけどさ。
あたしだって小さい頃から淫魔なわけじゃないしね。純粋な頃もあったのよ。それが壊れたのは母さんが出て行った後だった。
父さんの説明によればあたしは父さんの子じゃなくて静馬のおじさまの子だって事。
つまり、夕歩はあたしの異母妹だって事。
…あのさ、それって幼い子供に言わなきゃいけない事だったのかな?父さん。
その時の衝撃って言ったら『ガッデーム!!!』って大声で叫び出しそうなくらいだった。
幼いあたしよ、よくぐれずに育った。あんたはいい子だよ。
まあ、そのまま何も知らずに育って夕歩と過ちを起こしても大変だったけどさ。
そしてあたしはその恋を道場の裏庭の地下深く深くに埋葬した。
初恋よ、さようなら。ちゃんと成仏してくれよ、アーメン。
それは言い過ぎだとしてもそれに近いものがあった。
言われてみれば小さな頃から何も知らない大人に夕歩と姉妹だと間違えられる事が多々あった。その度にあたしはそれを否定していた。夕歩は妹じゃなくてあたしの大事なお姫様だって。
…ごめんよ、見知らぬおじさま・おばさま達あなた達の言った事の方が正しかったです。
しかも、守ろうと思って必死に隠し続けてたその秘密は夕歩には暴露済みだったしさ。
何だよ、それって感じ。あたしは何を一生懸命になってたんだろう?って。
あたしも静馬のおじさま木刀でどついた時に誘って欲しかったよ、久我流忍術で再起不能にしてやったのに。
とにかく、これがあたしの初恋の話し。
そして話しはあたしの二度目の恋へと進む。そりゃ、可愛いなと思う子とかはいっぱいいたけどさ。こんな気持ちになったのは二度目だった。
あたしが話そうと思ったのはこの恋についてなんだ。言い換えれば厄介な恋の物語。










 
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