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□染谷ゆかりはかくも語り(reprise)
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【染谷ゆかりはかくも語り(reprise)】







よし、やるぞ!!!!
BGMオッケー!キャンドルオッケー!飲み物もオッケー!
シャワーも浴びたし、シーツも綺麗な物と交換済み。
綾那には今夜は帰ってくんなってちゃんと言ってあるし。
あいつ、それで察したみたいで、らしくないニヤニヤ笑いしてたけど…。
下着は…いや、染谷みたいなあんな気合いの入ったものはさすがに持ってないし。
とりあえず、お気に入りの水色のストライプを選んでみました。
後は染谷が来んのを待つばかり!
…ってまだ待ち合わせの時間まで後一時間もありますけど。
もしかしなくて、気合い入れて準備しすぎた?
仕方ない、と思って適当な雑誌を拾ってパラパラと読むけど頭になんて全然入ってこない。
思い浮かぶのはこの間、拝見したないすばでぇーだけで…、
…やばいって。何、ニヤけてんのあたし。
キモイよ、さすがに。
用意してあるCDをとりあえず一枚選んでかける。
あたしのお気に入りの一枚。甘い歌声が部屋を満たす。
…うん、やっぱ綺麗な曲。
ベッドにもたれ掛かって、ボーッとしててふと気付いた。
あたしのベッドって二人乗っても大丈夫なのかな?
いや、たぶんただ二人で眠るだけとかなら平気だと思う。
けど、今回はただ眠るだけじゃないしね…。
してる最中にベッド抜けたりしたら、シャレにならないな…。
綾那のベッドを借りるか?
……いやいやいや、それはさすがにダメだろう。
染谷も落ち着かないだろうし、あたしだってあいつのベッドで初めてをするなんて絶対に嫌だ!
とりあえず、自分のベッドに上がってみる。
うん、まあ、一人なら全然オッケーなんだよね、何時も寝てるし。
俯せになって転がってみる…おっけー。
腕立てしてみた…うん、ちょっと軋むけどおっけー。
ついでに天井で頭を撲たないようにスクワットも数回…ぎっしぎっし言ってるけど、たぶんおっけー。
大丈夫…だよね?染谷確かあたしよりもかなり軽いはずだし。
そのまま寝転がって天井を見上げる。
うわっ、やばい…すっごいドキドキしてる。
もちろん、性的な事を想像してのドキドキもありますよ。
なにせ、あたし淫魔ですから。
けどさ、このドキドキはどっちかというと不安の方。
ちゃんと出来んのかな?とか、してみて染谷あたしに愛想尽かさないかな?とか、鼻血出さないかな?とか。
その他、もろもろ…。
予習の為にいかがわしい本でも読もうかと思ったけど、変に興奮しすぎてまた鼻血とか出したらヤバイし…。
だって、初体験すよ!
もう一回言うけど初体験すよ!!
…あ、しつこいって。そりゃ、すんません。
でも、言いたいんです、初体験ですよ!!!
染谷に誘われたあの時に勢いのまま、ヤッておけば良かったとか思ってしまっている自分はやっぱヘタレなんでしょうね…。
あのさー、あたしの不安をくだんないなんて言って笑わないでよね。
マジでこんなにドキドキしてんのって久しぶりなんだからさ。
…コンコン。
小さなノックはあたしを現実世界に引き戻す。
携帯の時計を見れば約束の時間ジャスト。
染谷ってやっぱこういう所、几帳面だよね…。
ベッドから飛び降りて慌ててキャンドルに火を灯し、明かりを消す。
ドアのノブに手をかけて、大きく深呼吸。
……もう一回しとこう。

「順?」

大きく息を吸い込んだところで不意打ちでドアが開く。

「…なに、してるの?あなた」
「い、いや、ちょっと…」

大口開けてるあたしを見て染谷は怪訝そうに眉間に皺をよせる。

「綾那、いないのね」
「ああ、うん。増田ちゃんとこ…夕歩の部屋に行ってもらってる」

染谷はその言葉で悟ったみたいで、眉間の皺を消してちょっと笑う。

「…なに?」
「別に」

座りながらキャンドルにチラッと視線を走らせるけど、染谷からは何のコメントも無かった。
うーん、ちょっとやりすぎたかな…。

「お茶でも入れますから、ちょっと待って」

ティーポッドを取り出し、沸かしておいたお湯を注ぐ。
部屋の中に香ばしい芳香が立ち上る。染谷の好きなアールグレー。

「あなた、紅茶も飲むのね」

意外そうに言われたから苦笑してしまう。

「飲むよ。普段、飲まないのは綾那が部屋で飲むと凄い嫌そうな顔するから」

あの人、紅茶が嫌いなんだよね。このいい香りをあいつ『くさい』とか言って嫌がる。

「このポッドもあたしのだけど、夕歩の所に置いてるしね。今日は久しぶりに飲もうかと思って」

ちなみにあたしの好きなのはアッサム、夕歩が好きなのはセイロン。
…このアールグレーは染谷の為に買ってきた物。
仕上げにミルクを入れて手渡す。あたしはストレートのまま。

「ありがとう」
「本当はアルコールでも買ってこようかと思ったんだけど、さすがに我慢しました」

ほんとはアルコールの勢いを借りてっていうのも考えんだけど、けど折角なのにアルコールで鈍った頭で染谷を抱いたりしたくないし。

「美味しい…」

へへっ…。
小さく呟かれた言葉に嬉しくなる。
あたしも一緒に紅茶をしばし啜る。
…ええっと、この後ってどうしたらいいのかな?
チラッと見れば染谷は両手でティーカップを持ったまま、静かに目を閉じてる。

「…この曲好き?」

尋ねたら染谷は目を開け、あたしの方を見る。

「うん、好きな感じね。私、あんまり洋楽って聞かないんだけど…」
「あ、そうなんだ」

綾那は洋楽派なのに…そうなんだ。

「でも、染谷に流行りの曲って何か似合わないね」
「どういう意味よ?」
「いや、なんとなく」

二人してしばし流れる音楽に耳を傾ける。
…あー、なんかさ。
なんか今更だけど…正直な話エッチの事とかどうでもよくなってた。
そりゃ、したくないって言ったら嘘になるけど。
この今の穏やかな雰囲気だけで、幸せだとか思ってしまえるんだよね。
好きな人が隣にいる…ただそれだけでこんなに幸せって凄いよね?

「…染谷」

手を伸ばしたらちゃんと握り返してくれた。

「なによ?」

何も言わずにその手に指を絡めたり、撫でたりして遊んでたら染谷は小さく尋ねてくる。
その口元には楽しそうな笑み。

「いや、別に」

…そのキスは自分でも自然に出来たと思えた。
握った反対の手からティーカップをとり、テーブルに置く余裕まであった。
少しだけ顔を離して見つめるとその瞳も笑ってる。
左目に掛かる髪の毛が少し鬱陶しくてそっと払うと染谷は少しだけ体を引いてしまう。

「あ…嫌だった?」
「ううん、嫌では無いけど…」

何時も隠してあるからその傷をこんなに間近で見るのは初めてだった。
左目から頬にかけて走る傷をあたしは…なんでか分かんないけど凄く綺麗だと思ってしまった。
普通ならさ、女の子の顔にある傷なんていい物であるはず無いんだけど…。
むしろその傷は染谷の秀麗さに凄みを与えてて…なんだか神聖な物に見えた。
その傷へそっと唇を押しつける。

「…これ、まだ痛い?」
「偶に痛むけど、今は痛くないわ」

消してあげたい、なんて冗談でも思えなかった。
だって、この傷は染谷にとっては誇りなんだから。

「染谷…」

好きだよ、そう言う代わりにまた口づける。
自然にあたしの首に染谷の両腕が回される。
最初はただ触れるだけ、それからこの間学んだように舌先で染谷の唇をくすぐると染谷もそれに答えてくれる。
何だろう?凄く喉が渇く感じ。
頭が上手く回っていないのが自分でもよく分かった。
ただ染谷の唇の感触が気持ちよくて何度も舌でなぞって唇で啄む。
軽く歯をたてたら、肩を押し返された。

「…ん?」
「歯はたてちゃ駄目よ…」
「あ、ごめん。痛かった?」
「痛くは無かったけど、唇って敏感だから」

言う顔は笑ってたから、苦情ってわけじゃなくてこれは……指導ってヤツっすかね?
手取り足取り、『染谷ゆかりのお色気講座』。
………うわー、通いたい!!
もちろん、生徒はあたしだけですよ!!
でもさ、でも………。

「手馴れてますって言われてるみたいでヤダなー…」
「まだ、言ってるの?それ」

ボソッと言ったら苦笑いされました。

「んー……。まー、ほら、もう綾那の事は仕方ないと思ってるけどさ。過去は変えられな
いんだし。けどさ……」

何だか次の言葉を口にするのは気恥ずかしかったから、あたしの顔をのぞきこんでる染谷から顔をそらし俯く。

「………あんたの初めての相手があたしだったら良かったのに、って思うだけ」
「………」

……………なんも言わないんすね、染谷さん。
俯いてるせいで染谷の表情は分からない。
まー、でも呆れた顔してそうだよね。

「それに百戦錬磨の染谷さんにかかっちゃ、順ちゃんなんてまだまだお子様だろうし」
「誰が百戦錬磨よ」

失礼なって言葉と一緒に髪を軽く引っ張られたから、顔をあげる。

「…ちゃんとリードして」

……それって………順さんが主導権握っていいって事っすか?

「あ、はい」

とりあえず、腕を伸ばして抱き締めた。ぎゅゅゅうって。
苦しかったんだろう、染谷はあたしの肩やら背中をばしばし叩いてくれた。

「ベッド上がる?」
「……そうね」

二人で立ち上がり……あたしはしばし思案。

「…お先にどうぞ」
「嫌よ、あなたスカート覗く気でしょう?」
「ソンナキハナイデスヨ」

手を振って言ったら何故かまた叩かれた。何でだ?
うーん……。

「二段ベッドの上段ってあんまムード無いね」
「今更ね、そんなの」

二人で梯子上るってのも何かちょっとマヌケ。
梯子を上らなきゃいけないから、お姫様抱っことかもちょっとさすがの順さんでも難しいし…。

「あ、肩に担ごうか?」
「…………いいから、早く上がって」

何だか疲れたように言われたから、大人しくその言葉に従う。
ベッドに上がると染谷も上がって来たから、あたしはその分後ずさる。
枕元の柵が背中にあたったから、そのままもたれ掛かる。

「…あなたがそこにいたら、私はどうすればいいのよ?」

狭いシングルサイズだから、染谷は困ったように問い掛けてくる。
あー、確かに。逆の方が良かったね。

「膝にのる?」
「………いいのね?」
「うん、いや……」

いや、上に乗られるのは全然嫌じゃないんだけどさ。
むしろ、ウェルカム!!!
けど、上に乗られてしまえばきっと主導権はあっさりと染谷の方に行ってしまいそうだし。

「あー、でも染谷上に乗ってする方が好みなんじゃないの?」
「はい?」
「綾那の上に乗っ…………ぐぇっ!」

問答無用で枕を投げつけられた。
柔らかいはずのそれが凶器になるとは恐るべき!天地学園剣待生!!

「そそそ、それはいい加減忘れなさいよ!!」

真っ赤になって染谷はどもりまくりながら言う。
あ、さすがに真っ最中見られた事はトラウマにはなってるんだ。

「えー、無理。順ちゃんメモリーにばっちりインプットされてますから」

バンッ!!
…今度は枕で殴られました。

「あー!待った!待ったって!染谷。とりあえず、その枕置いて!」

まだまだ猛攻を与えようと枕を持って両腕を振り上げたまま、染谷は止まる。

「………メモリー消して」
「はい、消しますから」
「バックアップもよ」
「……はい」

……いや、消せないけどね、あんなの。

「………下がいいわ」

枕を放り投げて呟く染谷さんはなんだかすでにお疲れモード。

「んー、分かった」







染谷が横になってくれたから、あたしはその上に覆いかぶさる。
おおっ!何かやっとそういう雰囲気になってきたんじゃない?
ふと考えれば、なんかあんまムードも雰囲気もない流れになってたのね、あたし達。
最初の方は上手くいってたのに、いつの間にかこんな事になってんだろう?
さくさく、終わらせないとまた話が長々しくなっちゃうじゃん!
と、言うわけで染谷さんの服に手をかけて脱がす事にしました。
染谷が脱がしやすいように身を捻ったり、腰を浮かしてくれたりしたんでそう苦労せずに下着姿にする事に成功した。

「………わおっ」

声が掠れて慌てて咳払いをする。
この間も見たけどさ、この下着の殺傷能力ってほんとに凄いと思う。
なによりも、あたしの為って言うのがクリティカルヒットだよね。
OVER KILL!!!
簡単に順ちゃん、天に召されちゃいそうになる。

「…くだらない事考えてるでしょ?」
「うっ…!何で分かんの?」
「顔に書いてあるわよ」
「こんなセクシーなゆかりを前に他の事なんて考えられませんって」

染谷は何か言い返そうとしたけど、そのまま口を閉じる。

「…寒くない?」
「大丈夫よ。それより、脱がないの?」
「そだね」

染谷に手伝ってもらいながら、服を脱ぎ捨てていく。
……なんか、人にジーンズのベルト外されるのってすっごいエロいね。
胸の谷間から眼を離せないし………ああ、マジで凄い!この人の体!!!!
あたしも下着姿になるとなぜか染谷はマジマジと見つめてくる。

「な、何すか?」

今更だけど恥ずかしいんすけど?
いや、まあ、そりゃ順ちゃん見せるのにそう抵抗ってないよ。
むしろ、手つかずの大自然を見て貰いたいくらい。
だけど、好きな人にこんな至近距離で見つめられることがこんなにも恥ずかしくて照れくさいものだとは思わなかった。

「いや、この間も思ったんだけどあなた意外に均整のとれた身体してるわよね」

…それって褒められてんのかな?

「意外ってなに?そりゃー、染谷程じゃないけどさあたしだって平均サイズだよ。綾那よりも胸はあると思うけど」
「誰が胸の話ししてるのよ。じゃなくて…」

うわわっ!!!
染谷の手が二の腕をなぞるから、あたしは思わずくすぐったくて身を縮める。

「綺麗に筋肉ついてるのね。少しうらやましいかも」

うん、まあ、それは一応忍者ですし。
単純に力とスピードだけなら染谷や綾那にも負けない自信ありますし。
こう見えて日々の鍛錬も真面目にやってるしね。
染谷の腕は二の腕をなぞり終えるとそのまま、肩から頬へと上ってくる。
くすぐったいようなゾワゾワするような感覚。
唇を指でなぞるから、捕まえて甘く噛んでみた。
…何も言われなかったから、これはオッケーなんだ。

「…染谷」

うん、やばいなー…。
茶化して誤魔化すのも、ちょっともうそろそろ限界。
染谷にもそれが伝わってしまったんだろう。
ただ一言、こうとだけ言ってくれた。

―好きにして…



    

  
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