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□Go to a brighter place
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【Go to a brighter place】




恋人の唐突さや不思議な思考回路にも慣れたつもりではあったけど。

「綾那」
「ん」
「週に一回って少ないのかな?」

それでも、突然の質問に言葉を奪われるのは何時になっても変らない。










「…それは何の話?」

たぶん、そうだろうけど。
たぶん、『アレ』についての事なんだろうけど。
だけど、ここで『いや、週に一回は正直少ない。毎週土曜日は朝からソレについて考えてしまって仕事も手につかない』なんて正直に答えていいものかしばし思案する。

「…夫婦の営み?」
「何で疑問系なのか知らないけど、急にどうしたの?」

ソファーに座って膝に乗せたラップトップで持ち帰った仕事をしてる時だったから。
その話題を持ち出した人が立ったまま私を見下ろすから。
その顔を見上げながら首をかしげて、それから視線だけで自分の隣に座るように促す。

「ゆかりとそういう話になって」

視線だけでも私の伝えたい事は伝わったみたいですぐ隣に座るから。
少しだけ体を傾けてその頬にキスをすれば、それすら気にせずに夕歩は真顔のまま。

「それが順だったら殴りたおしてる所。ゆかりに何か話したの?」

週に一回の営みの話を具体的にしたとは思わないけれど。
だけど、正直な話ソレを始める時には臨戦態勢になりすぎて偶に震えが来る話はされていない事を願う。
(がっつかないように必死なんだよ、こっちは)

「週に2回の時もあるよ、って」
「…まあ、偶にあるけど」

別にお互い話し合ってそうなった訳ではなく、何時の間にかそうなっただけで一週間の回数が決まっているわけじゃなく。
だからと言って若い頃のように毎日盛る体力も性欲も無くなってる来ているのも事実。

「ゆかり達は下手したら毎日してる、って」
「思春期かあいつらは」

ゆかりと順の生々しい話なんて聞きたくも無い。
まさかあの二人がこんな関係になるなんて盛っていたあの頃なら想像も付かなかったのに。
今はあの二人が幸せな関係を築くのを願うのは……まあ、私も年をとったからか。
(だからと言ってあの二人の情事の話は正直吐きたくなるくらいに聞きたくない)
そして話していて一つの可能性に思い当たる。
顔を横に向けて、まっすぐ前を見てこちらを見てくれない恋人を振り向かせるためにもう一度頬にキスして。
私の方を向いたのを確認して、それから少しだけ背中を曲げて(意識してじゃなく無意識にそうなった)その瞳を伺う。

「………夕歩は、その、毎日したい、とか」

盛っていたあの頃ならともかく、いや、今ももちろん夕歩に欲情して暴走する事もたまにあるけど。
だけど、その、毎日出来る?と聞かれれば…………いや出来るな。むしろ、かかって来い。

「んー…、毎日……」

…乗り気じゃない返事なのは、まあ、仕方ない。
(良かった、声を大にして『私は毎日したい!』と叫ばずに)
(…私もあいつらに『思春期か』なんて言えない)

「違うの」

言いながらこつん、と額を私の肩に乗せてくるから。
膝の上に乗せていたラップトップをテーブルに置いてその頭を引き寄せる。

「したくないんじゃなくて……私はこうやって綾那と触れ合ってるだけで幸せだから、しなくてもいいかなって…」
「……私も」

いや、嘘だけど。
そう言う夕歩だって嫌いじゃない方だとは思う。

「けど、綾那が『少ない』って言うなら考えた方がいいのかなー、と思って」

少ない、とは言わないけど、もう少し……もう少し増えてもいいかな、とは思っている。
思っている、けれども…。

「あー……いや、私は…その……」

……何をしどろもどろになってるんだ私は。
思春期か付き合い始めのあの頃じゃあるまいし。

「…週に1.5.回でどう?」

あいつらみたいに一晩に二桁稼ぐ程に渇望してないのは今が恵まれるからで。
(二桁って……)
夕歩の気持ちと自分の欲望を競わせた結果だした数字に何時も眠たげ眼を丸くして、それでも笑ってくれるから。

「…いいよ」

プラス0.5回で足りる自信が失せた。











膝の上に今度は恋人を乗せて。
くすぐり合うみたいなキスを繰り返して。
……どこまでが0.5回なのか。













…あんたとなら何時でも世界は眩しすぎて。





























「んっ………あ…やな…待って…」
「あー…0.5になった?」
「……ここまでしておいて止めるなら私、逆に怒るよ」
「い、いや、大丈夫。続けるから」





END
(14/09/25)

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