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□『リボルバー』のマーク・ストロングみたいに
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【『リボルバー』のマーク・ストロングみたいに】




「…………はい?」
「テメエのしょーらい。何の仕事すンの?」

どっかりと長い、長すぎる足をソファーに座ったままテーブルに乗せるからそれを無理矢理下ろして。
(だってこの部屋の主は祈さんだし)
(あまり槙さんの前ではこれはやらない。さんざん『無道さんが真似したらどうするの!』なんて槙さんに言われてたせいだと思う)
(そんな風に言われたら絶対に同じことは出来ないけど)

「…何ですか?足を洗って収入無くなるから私の扶養に入るとかですか?」
「とりあえず、テメエにそんなうまいけどヒねた切り返し出来るように教育したヤツをここに呼べ」
「はーい、呼びましたー?」
「扶養なら私のじゃなくて槙さんのに入りますね」

姉と恋人と。
二人揃うと時間なんて関係なしにアルコールを要求し始めるから、とりあえぐずり始める前にどちらにもビールだけ与えて。

「斗南さん、足洗ったの?」
「まずその認識からおかしーだろ。あたしがナニしてると思ってんスカ?」
「んー、華麗なる窃盗団、とか?」
「あれ?マグロ漁師じゃないんですか」
「テメエらはマグロ漁師が誰の足洗うと思ってンだよ」
「各港に女がいるの槙さんにバレてますよ」
「いねェし。それにアイツはまず気付かねー」
「そうやって浮気を正当化してるんですね、斗南さん」
「してねェって言ってンだろーが!」
「無道さん、お酒ー。ビールだけじゃ物足りなーい」
「後で出かけるんですから程ほどにしてくださいよ」

一通り恋人と一緒になって柊さんをからかって。
昔なら、私が子供の頃なら、こんな風に柊さんをからかうなんてまず出来なかった事が出来るようになったのはサイキョーの恋人の所為。
フラリ、と何の前触れもなく柊さんが現れるのは昔からで。
(そして何の前触れもなくフラリといなくなる)
(『タバコ買ってくる』と出かけてそのまま消息を絶つのは止めて欲しい)
ここに来る時は事前に連絡くらい欲しいのはこっちにだって都合もあるし、まあ…まずいタイミングもある。
(真っ最中に来た時に『どうします?帰ります?それとも交ざります?』なんて祈さんに聞かれてさすがにその後はしばらく不意打ちの訪問はなくなってたけど)
話は戻って…。

「将来のことならちゃんと考えてます。夕歩やゆかりや神門さんには相談してますし」
「無道さん、私には?」
「ンで、他人にばっか相談してンだよ」
「いや、祈さんとか槙さんはほら………」

ほら、だって……、まあ、そういうことで。
柊さんに相談なんて最初からする気も無いのはこの人には『常識』なんて通用しそうにないから。

「それに柊さんに相談なんてしても碌なことになりませんから」
「したコトねーっしょ?」
「小学生の時に『リボルバーのマーク・ストロングみたいにクールな殺し屋になりたい』って言ったらナイフの使い方教えてくれました。後日、槙さんに泣かれたんであなたに貰ったナイフは燃えないごみに出しましたけど」
「……………そーいや、帰った途端にアイツに殴られたコトがあったような」

帰った途端に泣きながら殴られてその理由の検討も付かない癖にキスで黙らせてそのまま寝室に運んで誤魔化してた頃の人を思い出して何だか柊さんを見る目つきが無意識にじっとりしてしまう。

「……なんスカ?」
「今の柊さんはまだマシだと思います」
「あの映画観せてやったのはあたしなんスけど」
「全然、意味分からなかった。今でも正直分からない」

ただ…他人の子供を守るために命を落とした情緒不安定でクールな殺し屋が誰かにかぶって見えたことは死んでも口にする気はないけど。

「無道さんの将来は私のお嫁さんですけど」
「その発言のナニに一番驚いたってアンタに結婚を一度でもする気があったってトコっすね」
「あ、でも無道さんは『お嫁さん』よりも『ヒモ』の方があって…「働きますから、ちゃんと働きますから」

誰がヒモだ。
…一瞬だけ時間を祈さんに尽くすことだけに使うのも悪くない、なんて思ってしまったけどそれなら別に『ヒモ』じゃなくて『嫁』でもいいいはずで。

「私達が結婚するとしても柊さんと槙さんがちゃんとしてからですよ」

ひねた言葉を返して、何時もの通りに嫌そうに(それが建前だって私は知ってる)眉間に皺を寄せて(その癖、口元だけで笑って)もっと痛烈な言葉を返してくると思ったのにそれは無くて。
そんな柊さんらしくない顔をして、そんならしくない質問をして。
将来のことを聞かれる、なんてそんなのまるで…。

「……まさか、どこかに消えて帰ってこない気じゃないですよね」

まるで、それじゃ『今後、自分はテメエに関与しないからな』と、そう言われてるみたいで…。



「……バーカ、その逆だ」





リボルバーのマーク・ストロングみたいにクールな殺し屋になりたかったんじゃなくて。
私がなりたかったのは……。










…柊さんのそんな顔、初めて見た。

































「斗南さんもとうとう堂々と上条さんのヒモになる気になったんですね」
「誰がヒモだ、テメエのツレと一緒にすんな」
「ヒモの極意はあなたから教わりましたからね」
「つか、どっか出掛けンじゃなかったんスカ?」
「ちょっと、新しいベッドを買いに」
「ベッド?」
「ギシギシなってうるさくて。誰かさんが激しいからすぐ壊れ…「…祈さん!!!!」
「……聞きたくもネーな、その情報」
「原因は私じゃなくて祈さんです」
「それもいらネーよ…」
「新婚祝いはベッドにしましょうか?」
「その前にイロイロあるッしょ?」




END?
(14/12/02)

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