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□0.03o
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【0.03o】
恋人の距離と言うのならば、私達の距離は一体どのくらいなのか。
「無道さん、コレも捨てておいて」
なんて言われた渡されたそれを無造作にゴミ袋に入れようとして(実際に一度入れた、そしてもう一度取り出した)それを渡した本人へと何か言いたげな視線を向ける。
「…使用期限切れたんですか」
「うん、買いだめなんてしないものね」
「買いだめって…」
「冗談よ、私が買ったんじゃなくて相手が置いて行ったの」
『相手が』って…。
そうは言われても種類の違うソレが何箱もある事実は……ああ、なるほど、違う人間がそれぞれ一箱ずつ置いて行ったのか。
「…あのですね」
とりあえず燃えるゴミを集め終えて、出しに行くのは明日でいいか、とひとまず手を洗って。
律儀に付いて来てはからかうような笑みを浮かべている人にあてつけのため息を大きく一つ。
「あのですね、普通、ああいうモノは今の恋人のいない場所で捨てるものです」
あ?いや、今の恋人が男だったら捨てずに使えばいいだけの話か。
…何箱も種類違い・サイズ違いのソレを見たら大抵の男はひきそうだけど。
「うーん、無道さんが男の子だったらきっと全部消費しちゃったのにね」
似たような事を考えていると少しだけ愉快に思えたのはずいぶん私にも余裕が出来て来たお陰で。
以前ならこんな事をされていれば不機嫌になって部屋から飛び出していただろうに。
………正直な話、コレを使っていた時の祈さんを想像すると心中穏やかではない、と言うか、むしろ暴れたい。
「避妊の心配がいらないのは確かに長所ですけど」
「でも、無道さんの子供欲しくなった時は困るわ」
サラリと言う元遊び人の恋人に絶句させられるのはもう何時もの事で。
(慣れたつもりが、それでも未だにこんな風で)
ただ楽しくて、ただ楽しみが欲しくて遊びまわっていたのなら、この人が好きでやっていた事ならば私には責める権利なんて無くて。
だけど、それが自衛のためだけにしていた行為なら、やはり怒りを感じるのは相手の男達へと。
「全部捨てていいんですか、それ」
こっそり、ひっそりと実はそれがしまってある引き出しは知っていたからそこを開けてみてその引き出しが空になっているのを確認して。
(…数が減って無いかこっそり数えていた私を誰でもいいから少し気の毒に思ってくれ)
「いいの、どうせ使わないし」
「使った方がいいですよ、性病の心配とかもありますし」
珍しく言ってみた嫌みに不快そうに顔を顰める恋人に笑って。
特定の相手を作らずに遊んでいたのはたぶん臆病だったから。
恋人がいても他の人と寝る習性はたぶん相手を試すために。
「……なーに?」
おもむろに頭を撫でて含み笑いの私に祈さんは唇を尖らせて。
だけど、その頭を撫で続ければ気持ちよさそうに目を閉じるからその額に唇を押し付ける。
臆病な恋人が私を試す事もせずに、浮気する事も無く、ただ私の所にだけ戻ってくるようになったのは何時からか。
諦めて、見放してしまおうと思って事も少なからずあるのに、それでも一緒に居たいが為にひたすらに許して愛して。
「…ですね」
今でもその笑顔に上手に隠して、私を試そうとするけれどそこにはもう二人の間に出来あがってしまったルールがあって。
何度でもどんな事でも、私が許すと知っているこの人はやっと私に身を預けることを覚えてきたから。
「何?」
「私が男だったら確かに全部消費してしまってたでしょうね」
愛を交わした回数だけなら、きっと私はこの人の中では一番になっているはずだから。
それ以外でもその内に色んな面でこの人の一番になれるように。
「うーん、どうかしら」
頭を撫でられるのに飽きたのか今度は反対に私の頭を引き寄せて、ぼさぼさの髪をさらにぐしゃぐしゃにしてくれる。
「それ、どういう意味ですか?私が男だったら魅力が無いとでも」
ふと、そう言えば自分も未開封で使用期限の切れたソレが箱のままどこかにあるはずだと思いだしてみて。
中学生の妹に無造作にそんな物をあげる姉に祈さんにバレないように苦笑する。
「ううん、そうじゃなくて…」
…さりげなくするキスはこの人の方が何倍も上手で。
触れるだけのキスでこれだけ骨抜きにしてくれる人なんてきっと私の人生この人が最初で最後。
「今だったらきっと、無道さんが相手なら男の子だったとしても使わないと思うから」
「………………」
祈さんの言葉の意味を考えてみて、言っている意味を理解しようとしてみて。
馬鹿みたいに硬直して茫然として。
それを見てまた楽しそうに私の恋人は笑うから…。
「……妊娠させていい、って事ですか?」
口から出たのはこれまたアホすぎる発言で。
それでも爆笑する彼女の姿が可愛かったから、まあ、いいんだと思う。
― あなたとなら0.03oも離れたくないんです
…なんて、そんな言葉。
わざわざ言わなくても大丈夫でしょう?私達。
「うん、既成事実って無道さんとなら悪くないかも」
「その場合、私はきっとショットガン持った柊さんに追いかけまわされる羽目になります」
「『テメエの種もテメエで管理出来ねーのかッ!』って?」
「ああ、言いそう…」
「上条さんと静馬さんって使ったこと無さそうね」
「私だって無いですよ」
「体験してみる?」
「生憎ですがもうあなた以外の人間と性的行為は出来ない体になってます」
「んー、偶然。私も」
END
(15/06/03)