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□Riff-Off
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【S&M】 (染谷さんと静馬さん)




私の恋人は優しい。


甘く囁く声も触れる指先も柔らかく柔らかく。
背中に触れる唇もただひたすらに。
執拗に攻め立てる指先ですら私を気遣って。

「夕歩…」

腰から背中を通って首筋に辿り付いた唇から切なげな吐息を吐きだして。
背中から覆いかぶさるように私に自分の肌を密着させる。
ゆかりの唇に指に導かれる度にシーツを握りしめ、その熱を感じて。

― 夕歩…

熱に浮かされた声で何度も呼ばれる名前は苦しげに響いて。
その顔を見たいのに、押さえつけられた体では寝返りをする事も出来なくて。
ただただ、背後にゆかりの熱を感じながら何度も何度も追い詰められていく。

「…夕歩?」

…私の恋人は優しいから。
私が苦しげにすればすぐにその手を止めて。
私を愛する手を止めて。
心配げな声はさっきまでの甘さも熱さを失ってしまうから。

「やだっ…」

拒否の声は息もつけない程に追いつめられた所為では無く。

「…大丈夫なの?」
「大…丈夫…だからっ…」

優しいあなたが私を追いつめる手を苦しめる指先を止めてしまうのが嫌で。
だって私は苦しければ苦しい程、あなたを感じられるから。
あなたに与えられるならきっと痛みですら快感になる。

「本当に……」

苦しげな呼吸をまた耳元で吐き出して。
何時に無い乱暴さで私の顎を掴んだのはきっと彼女なりの愛情。
それを好む私への優しい彼女なりの愛情。



「…あなたって悪い子よね」






…だけど、一番私をそそるのはあなたのその苦しげな顔なのかも知れない。















【Let’s Talk About Sex】 (斗南さんと無道)



『大人の話をしよう』なんて。




20歳になったら一緒に酒を飲むのが夢だった、ってどっかの親父では無いけれど。
(第一、酒ならこの人はとっくの昔から私に飲ませてる)

「…大人の話って何ですか?」

もう10歳児では無いと、未だにこの人もそしてこの人の恋人も思っていない気がして。
(『子供はいくつになっても子供』ってその言葉を直に体験させられるのはもうこりごりで)
(…たげど無造作に乱暴にこの人に頭を撫でられる感触は嫌いじゃないのは絶対に口にはしたくないけれど)

「どっかの誰かサンが子供扱いされンの嫌がるから」
「だからって何処から『大人の話』が来たんですか?税金の話とかすればいいんですか」
「可愛げのないお子様っスねー。人がせっかく話してやってンのに」
「私はあなた達の子供じゃありません。疑似親子やるなら順とでもやればいいでしょう」

可愛げのない子供は可愛げのない発言に自分自身が傷ついて。
疑似親子なんて、そんなの。
二人を両親として見て来たなんてそんな事は全く無いはずで。

「んじゃあ、大人の話ししても文句ないッスね」
「だから、さっきからそれって…」

見上げて睨んだ人の唇はにんまりと笑っていて。
口元のピアスを見つめたまま、何を言われてもさらりと『大人』らしく受け流してやろうと。
私はもう10歳児では無いから。


「お互いのセックスライフについてでも話し合いましョーか」
「すいません、ごめんなさい、それだけは嫌です」












誰だって自分の親のセックスの話なんて聞きたくもない。









「参考にさせてやろーと思ったンすけどね」
「あなたと槙さんの生々しい話しなんてごめんです!」












【I’ll Make Love To You】 (斗南さんと上条さん)




あなたと一晩中。




必ず私が眼を閉じたのを確かめてからされるキスも。
額にされるキスも。
薄眼を開けてチラリと隠れ見ているのが見つかれば、不服そうに寄る眉根と唇に遭遇する。
隠れて見ている事さえばれなければ、満足そうに笑う唇が見られるのに。


普段の発言や行動からも想像が付かない程に、甘い甘いロマンティストである、と。
そう言えば嫌そうに顔を顰めて、それでも部屋にはキャンドルを灯して。


何時でも、まるで、初めての時のように、優しく、甘く、私に触れるから。


「…斗南さん」
「…何スカ」


頬を両手で包みこんで顔を近づけてしまえば寄る眉根も歪む唇も見なくてすむから。
私に対する虚勢を捨てて、ただただ素直に私への愛を示すのは苦手な事は知っているから。


「…あなたと一晩中、愛し合いたいの」






ずっとずっと夜の間、私を離さないで











【Feel Likes The First Time】(無道さんと祈さん)



誰かとそうすることには厭きる程に繰り返したはずなのに。



肌の匂いが気持ちいい、とか。
初々しい反応が楽しい、とか。
(『初めて』って勘違いをしていたくらいだし)
相手が若いって、それだけでも自分より経験は乏しいってそのくらいは推測出来て。

「これが神聖なものだ、って子供の頃思ってなかった?」
「今でもコレは私の中で神聖なものですよ」

セックスの合間の軽口に、小休憩する気になったのか私の下腹に顎を乗せて返してくる言葉は呆れた音を伴って。
頭を撫でてあげようと握られたままの手を外せば逃がさない、とでも言うみたいにまたすぐに指を絡めて捕まって。

「『愛する人とだけする神聖な行為』?」
「もの凄く笑ってますけど、その通りですからね」

中途半端な状態ではさまれた休憩に、だけど文句を言う気がしないのは今のこれが快感のためだけの行為では無く可愛い恋人と楽しむための行為だから。
濡れた口元を開いた方の手の甲で乱暴に拭って。

「私にとっては、ですけど」
「怒らないで」

足を動かして、無道さんの背中を足の指でなぞればくすぐったそうに身をよじるから。
今度は誘うようにその肩に両の太ももを乗せる。


何度も何度も繰り返したこの行為に執着する気も無いし、他の誰かに同じように強請ったことだってきっとあったはず。
……なのに。

「…よく、こんなに出来ますよね」
「それって自分自身への疑問よね」
「そういう事にしてもいいですけど」

素っ気ない言葉はだけど熱もって掠れて、今から行為を始めるみたいに。
今から始めて愛し合うみたいに。
下腹にキスした後に下へ下へと下がっていく唇から吐き出される息は熱く熱く私の濡れたそこをかすめるから。


「…っぁん…無道さ…ん…っ」




厭きる程に繰り返した行為があなたとならまるで初めての事のように。
何度でも私の本能を呼びもどして、あなたを欲しがらせる。













きっと、あなたとならずっと。











【No Diggity】 (?)




欲しがる習慣はとっくの昔に消えたはずなのに。




それなりの欲はそれなりの快感しか生まないのを知ってしまったから。
『やれば出来る』ならやらない方がマシだ、なんて発見はあたしよりもきっとあの節操なしの幼馴染に教えてやるべきだったんだ。
(今はまあ『やれば出来る』なんて状態でも無いんだろうけど)
肩や頭が濡れているのは一本しか無い傘を隣人に押しつけて来たからで。
あたしのでかい傘じゃあの小さな隣人は持て余しているかも知れないけれど。

「信じられない」

雨宿りの場所は借りれた。
濡れた体を拭くタオルも借りれたし、体を温めるための紅茶だって貰えた。
だから、だけど、ここにはもういる理由が無い、と。
思いたくない反面、『ここにいてもいい』と間違って思い込んでしまう事の方が怖くて。
雨宿りの礼を言って玄関先に立てば、言われたのはさっきの言葉。

「何だよ、礼がまだ足りないとかか?」
「あんた、それ天然で言ってるならよっぽどのアホね」

小さな体をしてきつい言葉を吐くところは以前からだから気にもせずに。
電話越しに声を聞いた時から体の奥で少しずつ暴れそうになったモノの正体には気づかないフリをして。
だって、二人でいたあの頃だってそう頻繁にはしていなかったのに。

「…じゃあ、何だよ」

近くに立ってしまえばその瞳の色や唇の感触に気をとられて、息すら苦しい。
懐かしい香りに泣きだしそうになった……なっている、と言えばまた呆れたように『バカ』と言われるのか、それとも。
唇を開く前にしばし躊躇って、口元を押さえて。
だけど、見あげてくる瞳はあの見慣れた色。

「…本当に雨宿りだけして行く気?」

その見慣れた色の瞳にさらに別の光が浮かぶのを見るのは久しぶりで。
先に顔を引き寄せたのがどっちかなんてそんな事すら判断出来ずに。
欲しがる習慣は消えたはずなのに。


「本当は……」


やれば出来るって、そんなの良くないに決まってる。
だって、そこにはここにあるはずの物がないから。


「お前のやり方が一番好きだ」


そうじゃなくて、きっと。


「…好きだから一番いい、とか言えないの?」






欲しがる気持ちは消えたはずなのに、何で今こんなに泣きそうになるのか。









…長い雨宿りになりそうだ。








END
(15/11/06)

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