突発的大人パラレル

□Learn how to receive love
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【Learn how to receive love】



風邪をひいた……



何が理由か、裸で寝た覚えも無ければ腹を出して寝た記憶もない。
むしろ、寝相はいい方だと思ってる。
(『胸の上で指を組んで寝る癖、どうにかならないの?』と夕歩に聞かれるくらい)

「季節の変わり目は体調崩しやすいから」

首筋に指で触れて、下手な体温計より夕歩の指の方がよっぽど正確だから。
眉間によっていく皺はきっと結構な体温の所為。

「何で病院によって帰らなかったの?」
「……思いつかなかった」

ふらふらする頭で。
ふらふらしながら帰途について。
頭にあったのは家に帰れば夕歩が看てくれるだろう、なんて考え。
……いや、それは駄目だろう、私。
ベッドに仰向けになったまま、夕歩の顔を見上げて。
重くて仕方ない腕を上げて、小さく手を振る。

「寝てれば治るから」
「治るだろうけど。どうして病院行かなかったの?」
「いや、だから……」

ああ、怒ってる……。
重くて仕方ない瞼をあげて、瞬きを数回。

「………市販のでいいから薬飲んで眠って」
「…うん」
「…心配してるんだよ」
「………うん」

わかってる。
私のことを心配するが故に怒ってるのは。
…だけど、今は正直それを聞くだけの体力がない。
夕歩が持ってきてくれた薬と水を飲んで。
何か夕歩が言ってるのは聞こえたけど……そのまま気絶するように眠りに落ちた。







「……………?」

反射的に時計を見て、眠りについてから1時間ほどしか経ってないことを確認。
まだ、だるい体を起こして…………………ああ?

「…夕歩?」

ベッドの上、自分の膝の辺りにまるで猫みたいに丸くなって寝てる恋人を発見する。
毛布も何も着ていないから、それこそ夕歩の方が風邪をひく。

「ゆ………」

揺り起こそうと手を伸ばしかけて……止める。
夕歩に看てもらう、ってそれはたぶん甘え。
仕事で疲れ果ててるはずだし、何より夕歩にこれが移ったらどうする?

「…………………………」

そっ、とベッドから抜け出して寒くないように脱いだばかりの毛布で夕歩を包む。
(…あぁ……、体が重い……)
すやすやと眠る頬は愛しいけど、数秒だけ見つめた後に体力の限界に達する。
ああ、このままじゃここで倒れる。
ふらふら、とリビングに移動してソファーに倒れ込むように横になる。
自分で思っているよりも、弱っていたんだろう。
…………自分が着る用の毛布を忘れた。
そう気付いた時には再び眠りに落ちていた。






「…………………???」

今度目覚めたのは鼻に何かがあたってくすぐったかったから。
さっきよりも体は軽いけどまだ視界が歪んでる。
……その歪んだ視界にでかでかと恋人の頭があって、自分の頭を抱えた。
(鼻にあたってたのは夕歩のアホ毛だった)

「………」

ソファーの下、床に座りこんでソファーにもたれかかるように寝てるから、やはり疲れてるんだ…、と心苦しくなる。
何でベッドで寝かせたのにここにいるのか考えるのも今の私には辛いから。
もう一度そっと毛布を抜け出して。
(……あれ?いつ着た?)
自分の恋人が小柄で良かった、と思うのはこういう時。

「………ん?綾那?」
「あ、ごめん、起こした?」
「…小さい子供じゃないんだから起きるに決まってるでしょ。何してるの?」

何時もは軽い夕歩の体が今日は重くて。
それでも、やっとの思いで抱きかかえた夕歩をベッドに運び直す。

「夕歩をベッドに寝かそうと思って」
「そうじゃなくて、綾那、風邪ひいてるんでしょ?」
「だから、移ったら悪いでしょ?」

ソファーにUターンしようとすると寝かしたばかりの夕歩に引っ張られてあっさりベッドに引き倒される。

「…今日は別々に寝よう」

見下ろしてくる顔を見上げて。
こうしてる間も夕歩に風邪が移るんじゃないか、と朦朧した頭で考える。

「……やだ」
「『やだ』じゃなくて」
「一緒に寝る」
「今日は駄目」
「……一緒に寝る」
「…じゃあ、夕歩が寝付いてから向こうに行くから」

夕歩の顔が不服そうに歪むから。
これでも精一杯の妥協案。

「そんなことしても追いかけるから」
「……夕歩」

深々とため息をつくとのし掛かるみたいに体重を掛けてくるから、接触しないように慌てて押し返して……………あっさり負ける。
ああ、くそ、この風邪が悪い!
むしろ、風邪をひいた私が悪い!

「………心配してるんだよ」
「……私は夕歩に移るのを心配してる」
「大丈夫だよ」
「その自信はどこから…………まあ、いい。わかった、一緒に寝るから」

何時までも自分の上からおりない夕歩に根負けする。
そうでも言わないとこの夕歩はもう収まりがつかないだろうし。
……むしろ、押し返す元気も体力も無くて力尽きたと言うのが正解だけど。
大人しく二人でベッドに収まって、それでもキスは残念ながら避けておく。

「……綾那」
「……ん?」
「……はやく治してね」
「ん、わかってる」

心配されるのも世話をやいてもらうのも、まだ心苦しくて。
愛され方も愛し方も不器用で。
……だけど、少しずつそれを学んでいけるのは夕歩がいるから。
キスの代わりに頬を撫でて、また目を閉じる。
きっと、眠りはまたすぐに訪れる。
彼女の為にもさっさとこれを治してしまおう。


………彼女のキスの為にも。

















「………追いかける、って言ったよね?」
「わかった、わかったから!さすがにソファーで二人は狭いから、夕歩!」
「もう、ここでいい」
「あー…もう………」




END
(12/06/05)

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