突発的大人パラレル

□未だ/Somebody that I used to know
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【未だ/Somebody that I used to know】



―死んでもいいくらい幸せ

そう言っても何も言わずにただ隣で笑ってた








体温とか。
頬の柔らかさとか。
唇の感触とか首筋の匂いとか。

「…はぁっ………」

終わった後の苦しそうな呼吸の音とか。
膝の上に乗った体の重さとか。

「……重たくない?」
「それ、今更だよ、染谷」

すんなりとあたしの細胞に馴染んだのはそこに『情』はあっても『恋』が無いから。
求めてこないから。
『愛される』ことを。

「ほんっと、上乗るの好きだよね」
「あなたも嫌いじゃないでしょ?」
「うん、わりと好き」

するり、と。
あたしの上からおりてベッドの上、隣に寝ころぶから。
逆にあたしは起き上がって煙草に火を付ける。
一仕事終わった後の一服はだいたい不評で。
だけど、染谷は何も言わないから思う存分ゆっくりと一服を楽しめる。

「シャワー浴びてくるわ」
「んー」

終わった後の抱擁も癒やすためのキスも強要してこないから。
だから、染谷の体温や匂いや感触を覚えてもうんざりしなくて済む。
逃げられた時のことを考えずに済むから。
逃げ出す手順を考え始めなくて済むから。




―…私たち、二つ並んだ三日月みたいじゃない?
―三日月?

言葉の意図をはぐらかして笑うから、何も聞けない。

―あたし、今ここで死んでもいいくらい幸せ

…永遠を願ったのはあたしだけだったんだと思う。




「…うー」

一人で唸って一人で頭を抱えて。
あたしにとってあの人はもう過去の人だから。
それでも一つを思い出せば、次から次に記憶は溢れてくるから。
ほんとは美しい過去になんて出来てない。
相手の体温や匂いや感触が染みこむ前に逃げ出す癖が付いたのは、前に付いたそれを消されたくないから。

―赤の他人に。

そう望んでそれを実行したのはあの人だから。
荷物も他の人に取りにこさせて、電話番号も変えて。
何も無かったみたいに。
あたしとの間に何も無かったみたいに。

―本当にそんなこと出来るの?

そう聞きたくても今あたし達は『赤の他人』だから。
人の細胞に色んなモノを染みこませておいて。

―傷付いてるんだよ

それすら伝える前にもう人の前から消えてた。




「順?」
「………ん?」
「シャワー浴びないの?」
「あー、どうしょっかなー」

パジャマ代わりにあたしのシャツ貸したり。
そんなのも染谷じゃなきゃ、友達じゃなきゃ断ってる。
あの人がしてたみたいなコトすんなよ、って。
大事な思い出を壊されるくらいなら『愛』も『恋』も無い名前だけの恋人なんてお断り。

「……ね、染谷」
「なに?」
「満月と三日月の違いって何だと思う?」
「欠けてるか、欠けてないか?」
「…あたり」

あたしとあの人は三日月だったんだよね。
はぐらかした言葉の意図なんてあたしにだってわかってた。
……同じ部分が欠けた二つの三日月。

「…なんかも1回くらいイケそうな気がしてきた」
「嫌よ、シャワー浴びたのに」
「セルフでヤれって、なにその友達甲斐がない台詞」
「誰もそうは言ってないわよ。…その気にさせてくれるなら考えてあげる」
「えー、なに?染谷、どんな台詞に燃えるの?」
「普通に『好き』とか『愛してる』とか言われるのは好きだけど」
「好きだよ、染谷。愛してる!」
「なんでかしら?無性に腹がたつの」
「どうしろって言うの?」
「もういいから黙ってて」
「はぁーい」

唇は別のことに使うとして。
キスを返してくれるから、その気にはなってくれたみたい。

「…そう言えば」
「なに?染谷こそしゃらっぷ」
「さっきの三日月と満月ってなに?」
「…………………」

あーあ、せっかく染谷がその気になったのに。
……あたしの方が萎えてしまいそう。

「………くだんない例え話だよ」



同じ部分の欠けてるあたし達はさ。
きっとどんなにもがいたって欠落している部分は補えない。
だって、二人とも同じ部分が無いんだもん。
言葉にされなくても、笑顔にはぐらかされてもそのくらいあたしにもわかってた。
























―だからこそ、一緒にいたかったんだよ

…何時か死ぬまでにはそう伝えたい









END
(12/06/10)

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