突発的大人パラレル

□Fighter/Big Girls Don't Cry
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【Fighter/Big Girls Don't Cry】




強くもなったし、大人にもなった
だから、あたしは悲しんだりしてない
もう、あなたを恋しく想ったりしてない



……なのに、その声ははっきり聞こえた





「あたしさ、未だに花嫁の父親の心境なんだけど。『うちの娘、傷物にしやがって!』的な」
「それ夕歩には言わない方がいいわよ」
「まあね、あたしの方がボッロボロの傷物にされそうだもんね」

右手に夕歩用のワインとケーキ、左手に綾那と染谷用の焼酎をぶらさげて向かうは綾那達のお家。

−うちで一緒に夕飯食べない?

姫の指名があればこの人気ナンバー1お庭番の順ちゃんはすぐにでも参上させて頂きます。

−ゆかりも誘って
−え?あー、うん、おっけー

人混みを避けて染谷はすたすたと先を歩いて行くから、早足に追いかける。
ちょっとー、自分は手ぶらだからいいけどこっちは荷物重たいんだから、少しは待ってあげてよねー。
まあね、『どっちが荷物持つかジャンケンしようよ』って言い出したのはあたしです。
それに見事に負けたのもあたしです。

「染谷、歩くの早いって」
「貴方、歩くの遅いのね」
「今までのあんたの恋人たちはきっと歩調を合わせてあげるって事をあんたに教えてあげなかったんですね」
「向こうが合わせてくれてたし、合わなかった時は合わなかった時よ」
「うん、あんたの恋愛長続きしないはずだわ」
「貴方にだけは言われたくないわね」
「あたしの最長記録を舐めないでください」
「最短は48分でしょ?それ、ベッド1回で終わりじゃない」

染谷の後頭部と会話して(てか、これじゃ染谷さん通りすがりの人から見たら独り言言ってるみたいだよ)信号待ちでやっとその隣に並ぶ。
片手を差し出すから少しだけ悩んだ後、重い方の荷物を手渡す。

「染谷ですら48分より長いのにね」
「貴方、しつこいから」
「あんた、しつこいから」
「夕歩、何作ってくれるのかしら?」
「綾那が作るって言ってた」
「…行くの止めようかしら」

おもいっきり顔を顰めて、信号が青になったから並んで歩き出す。
今度は少しだけ歩調を早めて染谷の後頭部との会話にならないように。
大体、この人は何をそんなにイキ急ぐのかなー?
急いで二人の部屋に行ったって綾那の手料理しかないよ。

「いやいやいや、意外にあいつ凝り性だから夕歩曰く結構美味しいらしいよ」

−エプロン姿が可愛いんだよ

言ううちのお姫様の顔がとっことんデレデレで。

−料理より綾那の方が美味しそうだもん

花嫁の父親心境のお庭番を号泣させるような事を言ってくれる。
さすがにキッチンで美味しく綾那をつまみ食いしたことがあるのかは聞けなかったけど。

「まあ、あまり期待はしないでおくわ」
「その言……」

−その言葉、綾那より夕歩に聞かれた時の方が怖いよ

そう最後まで言った気もするし、そうじゃない気もする。
街を歩く人達の雑踏や道路を走り抜ける車の音やどこかから流れてくるBGMや。
騒がしい街中なのに……確かにそれが聞こえた。
獣だったらピンと耳を立てて周囲を警戒してる感じ?
近付いて来るのが獲物か敵か判断しようとしてる。

−…聞き違いだよね

そう思いこむ前に先に目で見つけたのは荷物を取りに来てくれた人の方。
視線が合った瞬間に自分をストーキングしてる老婆を見つけた時みたいな顔をして立ち止まるから反射的に軽く頭を下げて。
だけど、その瞬間……

「玲?」

高くも大きくも無い声はだけどはっきりとあたしの耳に届いて。
どんなにうるさい雑踏の中でもはっきりとあたしの耳はこの人の声を聞き分けてた。
彼女は硬直した神門さんの腕を引っ張った後、周りに視線を巡らして……………ああ、だよね。
何かに腕を引かれて条件反射的に足を交互に出して。
だけど、あたしの視線の先にはただ一人だけ。

−紗枝

呼んだらあたしの所で視線を止めてくれるかな?
さっきみたいに、まるであたしなんていないみたいなフリはしないかな?。
一体、何に驚いてるの?ってそう神門さんに尋ねてる声まで聞こえてきて。

「……でしたね」

右、左、右、左、右、左、左、左、左。
足が上手く動かない。

「…もう他人なんでしたね、あたし達」

すれ違う瞬間に気まずそうな顔をしたのは彼女じゃなくて荷物を取りに来てくれた人の方。
……彼女はいつものように笑ってた。









大丈夫だよ、確かに傷付いたけど。
今は『ありがとう』って言いたいから。
だって、あたしが強くなれたのはあなたのお陰だから。
戦うことを思い出させてくれたから。




…………一体、今は何と戦ってんだろね?あたし。
 
   
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