突発的大人パラレル

□ただそれだけの話
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【ただそれだけの話】



起きた瞬間、自分が毛布を蹴散らかしてることにはすぐに気付いた。
窓が開いてるのに気付いたのはその少し後。
外からする雨の音を聞いてから。

「…さむっ」

うちの彼女は雨で寒い日にでも窓を開けて眠りたがる。
その当の本人はベッドの隣に不在で、一息に起き上がって姿を探す。
キッチンにもバスルームにも姿は無し。
おかしい、今日は確か休みだから一緒にどこかに出かけようって話してたはずなのに。
首をかしげて『まあ、いいや』とベッドに逆戻り。
少し肌寒いから今度はしっかり首まで毛布をかぶって、それでも窓は閉めない、
瞳を閉じて、窓の外から聞こえる雨音に耳をすます。
雨が降ると不思議に歌いたくなるけど、聞いてくれる人がいないから今は止めておく。
雨が降ると不思議に淋しいような、悲しいような気分になるようになったのは最近の話。
それでも窓を閉じて雨音を追い出そうとは思わないのは、雨音から逃げようと思わないのはあたし達には雨が影のように付きまとうから。

「…ん?」

枕元で振動する携帯に目を開けて、表示された恋人の名前にもう一度首をかしげながら通話ボタンを押す。

『…順?』
「どうしたの?」

それだけ。
ただ名前を呼んだだけで何も答えずにすぐに切れるから、今度はこちらからコールしてみる。

―お客様の…

「あれ?」

圏外。
何度かリダイヤルしてみてから、諦めてベッドから起き上がる。
玄関を見ると彼女の翠の傘が置いてあるから、『ああ、それでか…』なんて一人で納得。
とりあえず着替えをして、自分の傘を持つ。
傘が無いなら困ってるはずだ、って。
きっと雨に濡れるから迎えに来て欲しいんだろうな、って。
話してる途中で携帯を落として壊したのかも、って。

頭の中には雨を避けて雨宿りしてる彼女の姿。
きっと、あたしが迎えに行って見つけてあげたら喜ぶだろう。


そう考えながら、一人分だけの傘を持って玄関を出た。














…彼女を見つけられないまま部屋に帰ったら玄関にあった彼女の傘が消えていた。
それ以来、彼女はあたしの部屋に戻って来なかった。





……ただ、それだけの話なんだけどね。

























翠の傘は置いていくから
濡れないように持って行って




END
(12/7/26)

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