突発的大人パラレル

□Gives You Hell
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【Gives You Hell】






―And truth be told I miss you

―And truth be told I'm lying






「また?」
「また」

呆れた声は最近……って言うか学生時代からだけど。
偶にね、もーちょっと優しくしてくれてもいいじゃん!とかも思うけど、それが染谷さんと言う生き物だから仕方ない。

「やっぱ、駄目だね。性的な欲求満たされてるとわざわざ恋人作ろうって気になんないや」
「私の所為みたいな言い方止めてくれる」
「うん、性的な面では染谷ってぱーふぇくと。あんたとヤんの好き」

はぁーっ、て。
深々とつかれたため息を唇で拾って、ニヤニヤ笑えば鼻をつままれるからあえてそのままで。

「ばってざそのごにずぎなえいがぎいたらざ」
「そのまま話さないで。何て言ってるか全然わからないから」

離れた手を捕まえて指先にキスして、オマケで付けた甘噛みはエロい意味で。
だって、この人性的な接触以外は嫌がるから。

「で?その子に好きな映画聞いてどうなったの?」

なんて言ってたか分かってんじゃん。
ささいな事だけど『通じ合ってる』って事に無理矢理して、こっそり心の中だけでほくそ笑む。

「『ディパーテッド』って答えたからその場でお別れした」
「……理由それだけ?」
「だって、マーティン・スコセッシ作品を推す子なんてロクでもないよ!」
「貴方はマーティン・スコセッシに恨みでもあるの?」

ホントは今日のデートもさ、あまり乗り気では無かった。
前からの流れでそうなって、流れでデートして…。

「あと、まあ、あれだね。お店のチョイスが最悪だったから」
「何?最悪に美味しくなかったとか」
「紗枝とデートでよく行ってた店だったから」
「ああ…」

染谷の『ああ…』がもうなんて言うか最悪に嫌そうで。
あたしだってそのお店に連れて行かれた瞬間、その場で逃げだそうかと思ったよ。
うん、オッケー、大丈夫!
とか、思って席について注文したのがいつも紗枝がチョイスとしてた料理だった日には死にたい気分になったよ!

「…マーティン・スコセッシは関係無いのは分かったわ」
「いやいやいや、それも重要だよ」

少しずつ少しずつ、残り香が消えていくみたいに存在は消えていくと思ってるのにまだ完璧には消えてくれなくて。
…自分でも未練がましいってよく分かってますよ。
ゴミ箱に彼女の物捨てながら『よし、あたしって潔い!』とか思いながらその行為がどれだけ感傷的かなんて知ってます。
だけど………。

「治りかけのかさぶた無理矢理剥がされてるみたいな気分」
「剥がされるんじゃなくて、貴方がわざわざ剥いでるんでしょ?」
「うわー、あたしったらM」
「本当ね」
「ベッドの中では染谷の方がM」
「いじめて欲しいなら何時でもしてあげるわよ」
「…………………」

………うん、今の言葉に心底ぞくぞくしたあたしは確かにMだ。

「チューしたい」
「そのいきなり欲情するの止めない?」
「じゃあ、今から欲情しますからブラはずしてもいいですか?」
「却下よ」

バチッ、と今度は鼻に平手を一撃。
加減してくれてんだろうけど適度に痛い。

「もうより戻せばいいでしょ!」
「あんたがそこで怒る理由がわかんないし!」
「怒ってないわよ!」
「怒ってんじゃん!」

愛しいあらいぐまは怒った顔もキュートで。
むしろ、怒った顔が好きとか言うとまた怒られるはめになるんだけどね。

「戻す気は無い、って何回言ったらわかってくれんの」
「行動が言葉に伴ってないからよ」
「そこであんたに責められる意味がわかりません。え?なに?あた………紗枝に恨みでもあんの?」

危なっ!ヤバい、危ないって!!
頭で考えずに口先だけで喋るから偶にポロッと危険な言葉を言いそうになる。
(ポロリはおっぱいだけでいいって、ね)

―あたしの事、好きなの?

冗談でも口に出しちゃいけない事がある。
まあね、『馬鹿じゃないの』ってあからさまに嫌そうに斬り捨てられたらさすがのあたしでもちょっとへこむから。

「…そうね、地獄に堕ちればいいくらいには思ってるかも」
「怖っ!染谷さん、怖っ!なに?紗枝と何があったの!?」
「さすがにそれは言い過ぎでも、最悪な気分になればいい、くらいは思うわよ」

………いや、あの、当事者のあたしよりも深くて怖い恨みをあなたがなぜ持っているのでしょうか?

「だってそうでしょ?貴方ばかり苦しむのは不公平よ。あの人だって順と通った道を見て最悪な気分になるくらいは当然でしょう」
「それは嫌だ」

出来れば紗枝には二人で歩いた散歩コースを爽やかに歩いて欲しい。
『ああ、いい天気だ』って空を見上げていい気分でいて欲しい。
あたしの事を思い出して最悪な気分になんかなって欲しくない。

「馬鹿じゃないの」

…………結局、言われてしまいました。
馬鹿みたいなのはあたし自身がよく知ってます。
だけど、恨む気もなければ最悪な気分になればいいとも、地獄に堕ちればいいとも思えないんですよ。

「いや、だから、紗枝に一体なんの恨みがあんの?」
「貴方を大事にしなかったからよ」
「………はあ」

―いやいやいや、たぶんされてたよ。

そう言わなかったのは言えばまた染谷がエキサイトしそうで。
紗枝を庇うよりも先に浮かんだのは……気恥ずかしいような感じ。

「……それはもしかしてあたしの為に怒ってくれてるんですかね?」
「貴方の馬鹿さ加減に怒ってるの」

…一刀両断されたし。
もし次にあの人を愛する人がいたら、もし次にあたしを愛してくれる人がいたら。
どっちの方が馬鹿なんだろうね。

「ほんとは未だ恋しいよ」

本心を口にして、だけど続きの言葉は口にしない。

―ごめん、でも、あたしはあんたに言ってない言葉がある

「…次の人にもあの人みたいな愛し方して欲しいの?」
「まさか!そんな愛し方あん…………まりして欲しくない」
「何で、変な所で区切るのよ?」
「…………そんな気分だったんです」

―そんな愛し方あんたにして欲しくない!

って、ほんと考えて動こうよ、あたしの唇。
むしろ、考えると余計に動かなくなるから別の行動で示して。
深いキスをした時に染谷が肩の辺りを掴んでくれる癖、好きだな、とか。

「……今日のシェフのお薦めコースはじっくりスペシャルコースです」
「どうスペシャルなの?」
「食べてみると分かると思います」

シェフが愛を込めて調理しますから。
もう一度、って唇を寄せればなぜかかかるストップ。

「…なに?」
「今日はシェフを頂きたいんだけど?」

ぐいっ、と押し倒されるのはいつものパターン。
この人、上に乗ってされるの好きだから。
だけど、見下ろす瞳が艶めかしく光ってるから……文字通り食われるのはあたしだと理解する。
まあね、いいです、気持ち良ければ何でもいい。
あんたに触れてられるなら何でもいい。

「ね、染谷」
「なに?」
「……何でもないです」

思うんだ。
あのお店に一緒に行った相手が染谷だったら……あたしは紗枝のこと思い出してたのかな?って。
きっと、染谷の好きな料理を注文して楽しく食べてたかも知れない、って。



………試してみないとわかんないけどね。






















あんたがマーティン・スコセッシが好きだって言ったら
あたしも『悪くないかも』ってそう思えるのかな?



END
(12/10/01)

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