突発的大人パラレル
□Happily Ever After
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【Happily Ever After】
『めでたしめでたし』で物語を終えるためには
『むかしむかし』から始めなければならない。
だから、この話も『むかしむかし』から初めることとしよう。
昔々、まだあたし達が子供だった頃。
あたしには愛する恋人がいて、染谷がただの毒舌な(あたしにだけね)友人だった頃。
そういう行為をするのは好きな人だけ、ってそう思いこんでいた。
「…染谷」
今は好きじゃない人とでも出来る。
ある程度、欲情できれば抱ける。
「ごめん、最後の方加減するの忘れてた」
まあ、あれですね。
好きな人が相手だと加減忘れて相手を息も絶え絶えにするくらいのテクニックは身についたって事です。
「…………もう、今日はこのまま眠らせて」
「はい、すいません」
ぐったりと横たわる人の隣で天井を見上げながら指を折って数えてみる。
えーっと…。
「……何回イカせたか、数えるの止めて」
「何回?」
「4.5回」
「その0.5はなに?」
「最後の方、イく体力も無かったのよ」
「それは失礼しました」
ぐったりと、そしてうんざりとした顔を横目でこっそりと盗み見て。
よくもまー、好きでも無い相手にこんなに出来るな、この人、と呆れてみる。
疲れたように瞬く瞼が完全に閉じて。
薄くて形のいい唇から漏れる吐息が寝息になったのを確認してからそっと自分の腕を枕にして眠る人の方へと向き直る。
― 服くらい着ないと風邪ひくよ
口の中で呟いて、着せてあげようか悩んだ後、起こすのが可哀想で止める。
……ああ、じゃなくて。
一度起こしてしまえば冷静になってベッドを出てしまうから、起こすのが怖い。
しっかりと毛布を二人の顎まであげて、静かに静かにその背中に手の平を置いて、染谷の鼻に自分の鼻を引っ付ける。
キスまで数センチの距離。
「……染谷とキスするようになるなんてね」
キスじゃすまないことまでしてるけどね。
もっと凄いこともしてるけど、触れるだけのキスは数える程。
性的な意味を含まないキスは数える程しかしてなくて。
キスとスキは紛らわしいから。
「………っ!」
そっとそっとした触れるだけのスキを慌てて飲み込んだのは、静かに静かに触れた背中が硬直したから。
朝までもう開かないと思っていた瞳が驚いたように見開かれていたから。
「あ、いや、その…っ!」
「……順?」
― 最後の0.5回を補充してあげようと思って
いつもの冗談すら口に出来なかったのは染谷が驚いて……そして、なぜか傷付いた顔をしたから。
そのまま、逃げるようにベッドを出てしまったから。
…昔々、彼女は強い強い「自分」を持った女の子だった。
自分自身で答えを探して、そして見つけ出す勇気をもった強い強い女の子だった。
「………今、何したの?」
あの頃の『女の子』より、今この目の前にいる『女』の方が弱々しく感じるのは何でだろう?
「……ハッピーエンドが欲しかったんだ」
ああ、きっと、今の彼女は「自分」がどこにいるかも分かってないのかも知れない。
そして、あたしはガラにもなく「彼女を導いてあげたい」なんて思ってる。