突発的大人パラレル

□Happily Ever After 3
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【Happily Ever After 3】





お姫様に恋をした私はきっと
差し出す手の中に『Ever After』を準備しなければならなかったんだと思う。







隣で眠っているお姫様が目覚めたら消えていそうな気がして。
目覚めのキスは私以外の誰かがするのが正解の気がして。
夜中に目を覚まして隣を確認する習慣は昔から。
隣で眠っているお姫様を確認して、安堵してその頬に唇を押しつける習慣もずっとずっと昔から。
…自分のキスで目覚めさせられるか、なんて試す勇気はない。





私と夕歩が結ばれるなんて、それはおとぎ話の世界の話しみたいで。
現実味の無いまま、どこかからいきなり現れた王子様に奪われもせずにずっと一緒にいる奇跡を自覚はしてる。








深夜のチャイムは安心しきったように私の胸に頬を寄せて眠る寝顔を愛おしく見つめている時になった。
こんな時間の訪問者は珍しくて。
しかし、来る人間は限られているから夕歩を起こさないようにそっと玄関まで行きドアを開ける。
…開ける前に確認しなかったから、虚を突かれて驚く羽目になったけど。


「……………ゆかり?」
「夕歩は?」
「…ベッドだけど?」

いきなりの言葉にとっさに答えて。
鬼気迫る勢いのゆかりがすたすたと自分の寝室に入っていくのを慌てて追いかける。

「ソファー使って」
「ゆ、ゆかり?」

ドアは無情にも閉まるから、渡された(と、言うより押しつけられた)毛布を手に途方にくれる。
…いや、ここは、私の部屋で、そこは私の寝室とベッドで、そこに寝ているのは私の恋人なんだけど………。
ドアを開けてそう抗議しなかったのは、こんな時間に切羽詰まった顔でここに来たゆかりには夕歩が必要なんだろう、と検討がついたから。
まあ、あれだ、ドアに耳を付けてみて小さく聞こえた夕歩の悲鳴に思わずドアを破りそうになったけど(修理したばかりなのに)ゆかりを信用する事にして。
だけど、ソファーで何も無かったように眠れるはずもない。
こういう時に忘れたはずの煙草が欲しくなる。
ぼんやり、と暗い部屋の中を見回してみて、不意に寒さを感じたのは隣にさっきまで居た温もりが今は別の人の隣にいるから。

カチャツ

寝室のドアが開いたのはどれくらいぼんやりと時間を過ごしてからか。

「出て」

短くそう言ってドアから顔だけのぞかせた(その下は裸とかじゃないよな?)夕歩が何か投げ渡すから反射的に受け取って。
それが自分の携帯でそこに表示された名前におもわず深いため息がもれた。
私のベッドを奪われてる原因はおそらくこいつ。

「…はい」

私が電話に出たのを確認して、夕歩はまた寝室に戻るから。

『…染谷、そこにいるでしょ?』

電話越しの沈んだ声を聞きながら、また深く深くため息をつくはめになった。

「いいから、とっとと引き取りに来い」

私の心は狭いから。
自分のお姫様を誰かに貸せる時間なんて限られてる。
寝室のドアを横目で見て、それから携帯を耳に当てたまま順の声を聞きながら近付いてドアを開ける。
暗い部屋の中、手探りでベッドに近寄って。

「…そんな事、私が知るか」

耳元で聞こえる順の声に吐き捨てた。
順が何か返す前に通話を切り、電源も切ってベッドの頭元に投げ捨てる。

「夕歩」
「…順、なんだって?」

この手の中に『Ever After』無いけれど。

「…さあ」

冷たい手足が夕歩の肌に触れないようにそっとベッドの中にもぐり込む。
…この手の中に『Ever After』は無いけど。

「…綾那、冷たい」

冷たい手を握って暖めてくれる人は腕の中にいる。

「もう一眠りしよう、お姫様」
「…どうしたの?」

腕の中でくすくす笑う幸せを抱き締めて、その頬へ唇を押し付けた。





手に入らないものを欲しがるより、今この手の中にあるものを大事にする方がいい。
…それが奇跡だろうとなんだろうと。
















― 染谷、逃げないように捕まえておいて!



アホか。
自分の大事なものくらい自分で捕まえろ。


























「……あなた達、私もいるの忘れてない?」
 
 
 
   
   
 
 
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