A

□Marry You
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【Marry You】







― …It’s a beautiful night,







ソファーの上、膝を立ててクッションを抱いて座るのは夕歩の癖だから。
そのクッションに嫉妬して取り上げて、ご機嫌斜めになられるのは何時もの事。

「…後ろにくるならクッション取りあげる意味がわかんないよ」
「夕歩の可愛い両手は私のものよ」

歯が浮くなんてものじゃない。
他人が言っているのを聞いたら鳥肌がたって、自分が言われたのであれば吐き気がしそうな台詞をさらりと言えるようになったのは何時からか。
ソファーの上、背もたれと夕歩に挟まれたまま、すぐ目の前にある夕歩の後頭部にこっそりとキスをして。
さっきの言葉の通りに夕歩の両手は私の両手に重ねられている。

「…テレビ見にくい」
「私は夕歩が見られるからいいわ」
「ゆかりから見えるの私の後頭部だけだよね」
「夕歩は後頭部だけでも可愛いわよ」
「顔見たらがっかりするってこと?」
「顔を見たら天使だと思うってこと」

歯の浮く軽い軽い言葉に私にもたれかかってくる夕歩の重みが増す。
抗議のつもりの行動でも、この細い体に全体重をかけられても痛くも苦しくも無い。
むしろ、苦しくなるのは私の胸。
…物理的な意味じゃなくて。

「…夕歩」

後ろから抱きしめなおして、その肩に顎を乗せれば本当は見てなんていなかったテレビが消されるから。
まだ、足りない。
歯の浮く台詞でも、それは本心で。
夕歩の事を想うとこんな薄ら寒い言葉ですら真実になる。
だから、どれだけ口にしても伝えきれる気がしなくて。

― ずっとずっと、側にいて貴方のぬくもりを感じていたいの

今、抱きしめているぬくもりが離れていくなんて想像も、そして耐えることも出来そうには無い。


「今夜は星が綺麗な夜だから……」

理由なんて何でもいい。
貴方と一緒に居られるなら。


「結婚しましょう」





貴方と結婚したい、って今思ってるの。
















「…星なんて見えないよ」
「私には夕歩が見えれば十分よ」

  
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