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□Santa Claus Is Coming To Town
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【Santa Claus Is Coming To Town】





「な」
「はい」
「ホントは何歳までサンタを信じてた?」
「今でも手紙を書くくらいには信じてるけど」
「はァ?」











声は悪くないのに、どこかずれたメリークリスマスを今年も聞くはめになるんだろう、ってそのくらいは予想してたけど。

「………なんスか?」

ドアを開けるなりメリークリスマスどころか冬の曇り空よりヒドい顔をしたオンナに、思わず開けたドアを質問の答えを聞く前に閉める。

「…何で閉めるの?」

もう一度、ドアが開いたから仕方なく中に入って。
外の天気と同じように雪が降る前みたいな顔の原因はまだ聞けないまま。
玄関に飾られた小さなシャレたツリーはこいつの性格通りに控えめに静かに厚かましくあたしにクリスマスの存在を押し付けるから。

「私、失敗したの」
「晩メシなら別に外でいいけど」
「食事の話しじゃなくて。ああ、でも斗南さんが外食がいいなら…」
「ドっちでもいいって」

上の空のわりにキッチンに立って料理をする手はてきぱきとしてて。
シャレた店は苦手だ、と言ってから毎年そうなように。
張り切って作られたテーブルに並ぶゴチソウを見れば今さら外で食べたいなんてさすがのあたしでも言えない。
(そして言えばこのオンナは躊躇いも無くテーブルの上の一日がかりで作った料理を片付けてしまうから)

「なんスか?」

もう一度、尋ねて。
今度まともな返事が返ってこないなら、一人でテーブルの上の料理を片付けてさっさと酒盛りでもしようと。

「今まで一度も忘れたこと無かったのに…」

ああ、また勝手に一人で迷宮に入ったな、と見切りをつけてテーブルの上の食事をつまめばそういう時には目敏く見つけて手首をつかむから。
調子はずれのメリークリスマスがキラいじゃないのは、この唇のせいだ、なんて絶対に口したくないことを考える。

「あ、わかった。斗南さんが明日渡してくれればいいのよ。うん、そうしましょう」
「ん、ワかった。渡す渡す」

筋道の通った説明をしてもらうコトは諦めて(待ってればクリスマスどころか今年が終わる)テキトーに相槌をうって。

「ちゃんとサンタさんから、って付け加えてね。今年からサンタに弟子入りしたって」
「……悪ィ、やっぱちゃんと説明シろ」

とにかく、今年のクリスマスはまだ始まらないらしい。




「…ラッピングもしてないの」
「………プレゼントは無しって約束じゃないンすかね?」
「ああ、大丈夫。斗南さんにじゃないから」

安堵した後に、何だか複雑な気分になったのは顔に出さずに。
それでも渡された箱を開ければ確かに明らかにあたし用には見えないスニーカー。

「無道さんへのプレゼント」
「あー……」

こんな無駄に高いモンじゃなくて安いのでアイツにはいいのに…、なんて言えば『値段じゃないの無道さんとって履き心地とか歩きやすさとか、何よりそれ転びにくいし蹴りやすいのよ』なんて語りだすから慌てて止めて。

「この前逢った時に履いてたの古くなってたから」
「……で?」

よくンなことに気付くな、とか、アンタはあいつの母親か、とか言えばまた話しがどっかに行くのはワかってたからそのまま続きを促す。

「…………毎年、送ってのに今年は忘れてたの」
「『送ってた』?『贈ってた』?」
「プレゼントは毎年、送り主の所に『サンタより』って書いて匿名で贈ってたの」
「メンドくさッ!直接渡しゃーいいだろーが」
「無道さんが高校2年生の時から毎年かかさず贈ってたのに……」

半分泣きそうになりながら言うから頭を抱えて。

― もー、いいって!

チビが喜ぶから、あのチビが喜ぶからって続けていたサンタクロースの真似を止めさせたのはあいつが高1の時。
さすがにサンタなんぞ信じてねーって、そう言ったのは枕元にプレゼントを置いた次の日には人の顔なんて気にせずあのチビの顔ばかり気にするから。
……もちろん、アイツが困ってたってのもある。
(情けない顔であたしに『…今年もサンタが来たよ』って言うから『ナニが不服なんだよ』と突き放しはしたものの)

― ホントは何歳までサンタを信じてた?

答えの知ってる質問をしたのはなんでなのか。
知ってたのに、サンタの真似なんて茶番を続けさせたのはなんでか。

― 無道さん、私からのプレゼントいらない、って
― 何時かいなくなった時に残された『物』だけを見るのは嫌だから、って

……あんたがいなくなんのはあたしと別れる時だろうが。

― サンタクロースからの贈り物ならいいでしょう?

あのチビが最初のあの時からサンタなんて信じてないのくらい知ってた。
ムカつくのはあのチビもこのオンナも……あたし自身ですらこの関係が続くなんて思ってないコト。
………思ってなかったってコト。

テーブルの上の料理が冷めていくのと同じくらいこいつの気持ちも冷えていくから。
おいしく頂くには熱い方がいい。

「あのさ……」

ポケットから出したクシャクシャの手紙はあいつから預かった『サンタへの手紙』。
気の利いたコトバなんて出てこないから。

「アイツから」

ホントは渡さずにいようかとも考えたけど…。
手紙の封がしてなかったのはたぶんわざと。
あたしが先に読むコトを見通してわざと封をしなかったんだろう、と思う。


『サンタさんへ

今年は私からもプレゼントがあるから柊さんと一緒にとりに来てください
                                   綾那』



サンタへの手紙があると聞いた時にコイツもとうとうイかれたか、と思って……そしてコレを読んだ後はヤられた!と思ってる。
手紙を見つめたまま、ふるふるしてるオンナを見つめて。

「……私がサンタってバレてたのね」
「…みたいッすね」

サンタクロースへの手紙なんてガキみたいなコトをするくらにいは、あのチビだって大人になったコト。
ガキが大人になるくらい長い時間一緒にいるならこの先もあるハズ、っていい加減開き直れよ、アンタも。
……それとも『この先もずっと一緒にいる』なんてコトバを言わないあたしが一番悪ィのか。

「…斗南さん」
「あン?」
「………クリスマスの奇跡ってこういう事なのね」
「どんだけオーゲサなんだ、アンタは」

クシャクシャになった手紙の皺を一生懸命のばしてるから、ソレを額にでも入れて飾りかねないと呆れて。
『柊さんと一緒に』なんてわざわざ書いたあのガキに今度会った時にドんな仕返しをしてやろーかと考える。

「行きましょう」
「は?」
「無道さんの所に今す……」
「行きませンって」

予想してた通りにの反応に笑うと不思議そうに首をかしげるから。
不服そうに口を歪めるから。
まだ持ったままだったあいつへのプレゼントの箱を投げて渡す。

「慌てんぼーのサンタさんよ」

サンタの真似が茶番だと知ってても止めなかったのは、楽しそうに笑う顔が好きだったから。
『プレゼントは無し』って決まりすら作る前の、だけどプレゼントを贈ってもいいのか躊躇って贈れなかった頃。
ただ、その顔を見るだけで赤と白に包まれたおっさんに感謝したくなったから。

「慌てなくてもアンタ置いて逃げやしねーって、アイツも………あたしも」

サンタが来ないなら、来るまで待ちますから。
もしくはアンタが望むならあたしがこの手で拉致ってくるから。

「…だから、先にメシいいっスか?」

それでも、気合を入れて作ったメシが冷えていくのは楽しくないから。
毎年コレを楽しみにしてる、と口にしないのは悪いとわかってるから来年は必ずそう言おうと。

「…そうしましょうか」

そーやって、またフニャっとだらしなく嬉しそうに笑うから。

…サンタは何時だってココに来てくれる。












「じゃ、じゃあ、来年は斗南さんにもプレゼントを贈っていいってことよね?ね?」
「あー、あたしユダヤ教だから」
「初めて聞いたわ、それ。じゃあ、来年からは別の趣向をこらすわ」
「信じんナよ、アンタは。フツーでいい、来年もフツーで」
「…そうね、来年考えましょうか」
「……だから、だらしのねー顔で笑ってンなって」





END
(13/12/19)

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