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□New Year's Eve
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【New Year's Eve】



52万5600分の愛すべき時間たちがある。







一年を測るなら何で計る?
52万5600の分か、それとも誰かと一緒に飲んだ真夜中のコーヒーか。
朝日の数でも夕焼けの数でも、インチでもマイルでも、あの人と交わした言葉の数でも。
…だけど、今の私なら手にしたノートに書かれたリスト。
そのリストが消された数かも知れない。




残り:470分


「チェーック!」
「ま、待って!久我さん、待って!」
「ほら、増田ちゃん急いで急いで。今日…って言うか今年がもう終わっちゃうよ」

リストの項目を鮮やかに消す手の先には幼い笑顔。
……私がなぜかこの会って間もない中学生とこんな事をするはめになったのか。
出会ったのは……と、言うかちゃんと話をしたのはクリスマスが始めてだった。
たまに現れて嬉しそうにケーキを買っていく中学生は本当に嬉しそうな顔が印象的で。
(いつも同じ種類のケーキを買っていくイケメン風の人と一度一緒に来店して、その嬉しそうな顔がその人と食べるケーキが理由なんだとわかった)
バイト先のケーキ屋さん、クリスマスのケーキを買って行くカップルにうんざり…そして羨ましい気分になりながら。
そんな中、幸せそうに予約したケーキを受け取って行く笑顔が微笑ましくて可愛かったから、なんだかほっこりした気分にさせられた。
ああ、あの人と食べるんだ……って、ほっこりしてたのもそう長くなかった。
(たぶん、カップルでは無いはず。年が離れすぎてる)
手が滑ったのかつまずいたのか、理由は分からないけど店を出た先、ひっくり返ったケーキの箱と背中からでもわかる衝撃が(この子の)伝わってきて。
接客を中断して外に出たのは……自分でもそんな衝動的なことは珍しいけど。

「…大丈夫?」
「あ?ああ……お店のおねーさん。……………ね、クリスマスケーキって予約分しか無いんだよね?」
「う、うん……」
「…余ったクリスマスケーキとか無いよね?」
「無い…かな。さっきも別のお客さんに断ったばかりだし…」
「……あたし、箱の中見るの怖い」
「…見なくても予想は付くよね」
「あー!神門さんに怒られる!むしろ、怒って!あの人、これでいいとか言いそうだもん!許す、あの人絶対にあたしを許す!そこが嫌!ってか、そういう男前なとこも好きなんだけどさ!」

まくし立てながら、それでも泣きそうに唇を震わせるから。
(『みかど』って言うのがたぶんあの一緒にいた人のことだろう)

「ちょっと待ってて」

店内に戻って、店長に睨まれるのを気付かないフリしてやり過ごして新しいクリスマスケーキを一つ手にもう一度外に出る。

「はい」
「……え?」
「交換してあげる。私はその落ちたのでいいから」
「交換って…」
「私はどうせ一人で食べるつもりだったから味が一緒ならそれでいいよ」

言ってしまって我ながら寂しいとか悲しいとか思ってしまったから慌てて付け加える。

「それに消せないリストの項目がこれで一つ消せるからいいの」
「リスト?」
「『今年する事』のリスト。『知らない人に親切にする』って言うのがやっと一つ消えた。…後は全然消えてないけど」
「……いいの?」
「いいの、むしろ受け取って」


…家に帰って開けた箱の中は本当に悲惨なことになっていて。
それでも、味は変らないのは本当だから。
崩れたケーキを食べながら、あの子の嬉しそうな顔を思い出して満足してた。





………それがなんでこんな事に?

「ねーねー、増田ちゃんほんっとにこのリスト残しすぎじゃないの?もう大晦日だよ」
「いいの!あくまでリストだから、いいの!」

『恩返し』したいとひょっこりこの子が現れたのは大晦日の日。
何をするつもりなんだろう……と思っていたらバイト上がりの私を連れ出して、こんなことに。

― リスト、消すの協力してあげる

そして、今、なぜか、この大晦日の日。
私は出会って間もない中学生と一緒に街を走り回っている。

「あ…」
「何?どしたの?」
「…リストのB番目『無茶苦茶なことをする』ってこれでもいいのかな?」
「これ?」
「知らない中学生と街を走り回ってる。普段だったら絶対にしないし…」
「ん、増田ちゃんがいいならいんじゃない?よし、じゃあ!」

「「チェック!」」

………意外にこんな大晦日も楽しいのかも知れない。
  

  
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