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□野良順が拾われた後の話
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【野良順が拾われた後の話】





不意打ちで肩を叩かれたのはヘッドホンから流れるColdplayの曲を聴きながらコンビニの棚に並んだケーキを選んでいた時。
何をやっても上手くいかない、ってそんな歌詞を聴きながら。
モンブランにするか、それともベタにイチゴのショートケーキにするか。
もしくはみたらし団子にでもするか、そんな選択を迫られている時だった。

「順」

ヘッドホンを外して振り返れば、そこにはお隣さんがいた。

「あ、染谷さん」
「何してるの?」

家の近くのこのコンビニは綾那と遭遇することは結構あって。
(大抵あいつはお酒と煙草を買ってる)
(…あいつが男だったらそこにはもう一つ明るい家族計画に必要なものもレジに置かれてると思うけど)

「珍しい、染谷さんと会うなんて」

それとは反対にそれ以外の住人達に会うことは稀で。
(祈さんは綾那に買いに行かせてるみたいだし、夕歩と染谷さんはそもそもあんまりコンビニを使わない人らしい)

「通りかかったら貴方の姿が見えたから」
「お、ほんとに珍しー。どうせ、家に帰ればすぐ隣にいるのに」
「誰かさんが棚の前に立ったままずーっと動かないから何かと思ったのよ」
「……へ?」

まだ音楽は止めてなかったから首にかけたヘッドホンからはまだ同じ曲が流れてて。
リピートにした曲が延々流れてるから時間の経過なんて分からないけど、そう言えば同じフレーズを聞くのもう何回目だろう?

「んー、いや、ほらさ、ケーキ選ぶのって結構真剣に悩まない?」
「コンビニケーキくらい悩むならどっちも買えばいいでしょう」

呆れたように言うのは染谷さんが大人だから。
こっちとしてはバイトもせずにお小遣い貰って生活してる身だからね、そういう訳にもいかないんですよ。
(変な所で甘いあの保護者は小遣いが足りない、と言えばあっさりと諭吉さんを数人くれそうでそこが怖いし)
(バイトしていいならするよ。だけどあの保護者は『そんな暇あったら勉強しろ』って言うし)

「どれが欲しいの?」
「買ってくれるの?」

どうしたの?なんて『珍しい』を連呼すれば今度こそ怒られそうだから、さっき悩んでた三つを指差して染谷さんに愛想笑い。

「せっかくだから染谷さん、選んでよ」
「何?選べないなら三つとも買えば……」
「一つでいい」

言葉を遮ってそう主張して、ああ、ちょっとだけ子供じみた声が出た、なんて。
だけど、何時もみたいに機嫌悪そうに眉間に皺を寄せることすらせずに不思議そうに首をかしげる染谷さんにもう一度笑いかける。

「…誕生日ケーキだから、人に選んで欲しいかも」


   
  
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