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□それぞれの理由
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【それぞれの理由】




薄着の季節だからって喜ぶ趣味は無い。





あるとしたら、それはどっちかつーとあたしよりも同じ部屋にいるこいつの方だ。

「久我」

普段は迷惑をかけなければ何をしてても放置してる。
(ただし、こいつの行動ってのは『迷惑をかけない』ことの方が圧倒的に少ないけど)
冷房を入れるにはすこし肌寒い、だけどじっとりとした空気ににじみ出てくる汗が気持ち悪い季節。
脱げば寒い、着れば暑い。
…だけど、さすがにこいつが着てるみたいに長袖のパーカーをきっちりと着てて平気な気温じゃない。

「暑くねーの?」

きっちりと首元までジッパーが閉じられたパーカーから視線を上げれば案の定、額に薄っすら汗をかいて。
さっきも言った通りに普段は放置してる。迷惑をかけなければ。

「いやー、そうですか?今日はわりと寒いと…」
「汗かいてんのにか?」
「い、今、走って来たばかりなんで」
「この一時間、部屋にいただろーが」
「着てたい気分なの、順」
「お前の気分はどうでもいいけど、見てるこっちが暑ぃんだよ」

しっしっ、と手の平で追い払う仕草をすればここはあたしの部屋でもある、なんてうじうじとうるせーから。

「あたしだって脱げるなら脱ぎたいですよ、それは!」

挙句に逆切れするからとりあえず丸めた新聞紙で叩いて。
(「扱いがゴキブリと一緒!」って抗議は聞かなかったことにした。こっちだってゴキブリと共同生活してるなんて思いたくは無い)

「じゃあ、脱げよ!」
「いやーん、先輩が襲い掛かってくるー!」
「…染谷、呼ぶ」
「あ、待った!神門さん待った!そんなとこで白服緊急連絡網使わないでぇ!」

すがりついてくるから暑苦しい!と蹴り倒して。

「白服って汚すんじゃないかってドキドキしますよね!」
「てめえは着てねーだろうが」
「いや、脱がす時」
「いいから生臭い話はいいからとっとと脱げ」
「いやん、脱いだら脱いだで修羅場ー」
「染谷に見られてもあたしとお前の仲を疑うわけねーだろ」
「じゃなくて」

ストップ、と突き出した手の平を鼻先であしらって。
額の汗の量が増えてるから、迷惑を通り越して呆れた。

「まあ、部屋の中だけなら脱いでていいなら脱いでますけど」
「勿体つけてないで脱ぎゃーいいだろ」
「いい、って言いましたからね。神門さん、『脱いでいい』って言いましたからね」

うるせー、と新聞紙をもう一度丸めれば慌てて頭からすっぽりとパーカーを脱ぐから。
タンクトップ姿になって『ああ、涼しい…』なんてほざく久我に一言。

「……その胸元やら鎖骨の下やら肩やら腕の赤いのは蚊か?」
「いえ、吸ったのは染谷です」
「………………………………」
「すごいんですから、あの人。すごいんですよ」




………聞きたくねーし、見たくもねー。



「やっぱり、着てろ!」
「あーもー!だから、言ったじゃないですか!」






暑苦しい話を聞かせれるくらいなら、暑苦しい外見の方がまだマシだ。









「染谷って気付かない間に吸うんですよね、あれって白服の特技ですか?」
「人をヒルみたいに言うな」
「あ、ちなみに背中にも跡あります」
「知るか」
「しかもされてる時の方が吸い付く率高いって不思議ですよね。してる時は加減にして吸ってくれるのに」
「あ゛?」
「吸引力が変らないんです」
「てめえの女はダイソンか」
「終わった後に『顎が痛い』とか言われるけど、あんたのは吸いすぎだって。それを言うならこっちだってサービスのしすぎで顎も舌も唇も痺れっぱなしなのに」
「久我」
「まあね、サービスさせてもらってる、ってのが本当ですけど」
「…久我」
「吸われても蹴られてもうちのハニー世界一だから。それに吸い付く力ならアッチの方だって………」
「久・我!」
「はい、何でしょう?」
「…あたしが新聞紙を鉄アレイに持ち帰る前に出て行け」
「………えーっと、染谷のとこにイッテキマース」






   
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