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□『マテ』が出来ない人達
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【『マテ』が出来ない人達】




CASE1:久我と染谷さん








乙女の憧れ、て、あたしの『憧れ』はどっちかと言うと「男子高校生じゃないんだから…」なんて言われる類の憧れで。
(呆れられて、だけどへらっと笑えば嫌そうにまた顔を顰められる)


…で、まあ、話は戻って。
今のこの状況って乙女の憧れ『壁どん』って状況じゃないんでしょうか?





詳しい定義は知らないから言葉の使用の仕方を間違ってたらごめんなさい。
だけど、ほら、壁際に好きな人に追い詰められて壁にどん!ってやられてるこの状況ってそうじゃないの?
壁に背中をべったり引っ付けて(だって、逃げ場ない)目の前に好きな人の顔があって、彼女の足が壁をドンっ!と蹴ったままの体勢で、んであたしは両手をあげてるこの状況ってそうですよね!

「な、何でしょうか?え?なに、染谷さん」

あげた両手は『抵抗しません、降伏です!』って証。
そんなの示さなくても常に尻にしかれてて、降伏状態だろう、なんて思ったそこのあなた!
これが違うんだな、うん。
………いや、98%くらいはそうだけど。
ベッドの中、たまに、うん、たまーに暴走して泣き声で『やだっ…』とか言われた時くらいかな、あたしがムリヤリ押すのって。
(終わった後に謝り倒すけど)

「スカートの中見えちゃうよ」

なーんて、染谷さんの足が蹴ってるのはあたしの部屋の壁だから同室者が帰ってこない限りは見るのはあたしだけだけど。

「こういうのは染谷さんぽく無いと思いまーす」

普段の彼女は目つきが鋭いのと突っ込みが鋭いのを除けばどちかと言うとおしとやか(…自分で言っといて何でかつい笑っちゃったよ、ごめん、染谷)な女の子で。
(まあ…、あたしが相手だとナチュラルに足蹴にしてくれたりはしますが)
壁を蹴ってた足をやっと下げたかと思えば今度は右手を壁について俯くからその顔は見えなくて。

「……………」
「…そ、染谷さーん?」

返事が無いから恐る恐るその顎に手を触れて上を向かせれば……ああ、なんて言うのかな、こういう眼って。
殺気立ってる……じゃなくて、えーっと、人斬りの目でもなくて……ヒットマン?
……おおっ、ちょっとぶるっとキちゃいました。

「…何か怒ってんの?」

単純に力ならあたしの方が強い自信はあるけど。
(口にだしては言わないけど。うちのハニーは負けず嫌いだからムキになってマッチョな彼女になられても困るし)
逆に彼女を抱えあげて壁に押し付けるくらいは、たぶん隙をつけば出来ると思うけど。

「…怒ってるように見える?」
「見えません」

やっと言葉を発した彼女の言葉に思わず頷きかけて慌てて首を振る。
(綾那があたしの今の立場だったら謝り倒してそうなのが眼に見えるけど)

「まあ…」

壁に付いた染谷の手をとって、そこに、指先にキスした後にしたのは自分の首の後ろに導くこと。

「…『ちょっと待ってよ』って言っても聞いてくれなさそうな顔はしてるなー、と思うけど」

うちのハニーは何でか自分からキスしたりお誘いをかける時は怒ったような不機嫌そうな顔をするから。
(付き合い始めはどっちか判断が出来なくて怒ってるのに誘って余計に怒らせたりもしたけど)

「…待てないわよ」

…今じゃ判断も上手くなって上手に誘導できるようになったけどね。
(首の後ろに回させた手であたしの顔を引き寄せるから)
今すぐ噛み付きたくて仕方ない狂犬(もしくは暗殺者)みたいな顔をして、くれたキスは食い千切られそうな(いや、例えです)勢いで。
背中は壁に押し付けられたまま、あたしは、たぶん、このままこの狂犬に食われるしかなさそう。









…まあね。
お誘いも素直に出来ない可愛い彼女にこっちだって『マテ』なんて出来ないけど。





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