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□黙って泣きやがれ
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【黙って泣きやがれ】




『刃友』と『親友』は、どちらが近いのか。
……何てそんな事、選べるわけもない。





「…決めて」

私より少しだけ下から見つめてきながら迫ってきたのは『親友』の方。
決めて、と言われてもさっき言ったように選べる訳も無いし、第一この二人をそんな風に見た覚えは無い。

「静馬さん、それは酷な質問だと思うの。ゆかりにとっても私と静馬さんにとっても」
「何でですか?」
「選ぶゆかりも辛いでしょうけど、もし自分が選ばれなかったら、と思うと私達も辛いでしょう?」
「ゆかりは私を選ぶと思いますけど」

自意識過剰ともとれる言葉はだけど私が彼女にはとことん弱いと知っての言葉で。
あながち間違ってもいない気がする。
(だって、先輩の方は何だかんだで打たれ強いし)
(むしろ、夕歩に冷たく出来る人がいたら見てみたい)

「あ、でも、ゆかりの一番弱い部分を見てるのって私だと思うの」
「…それは確かにそうかも知れません」

手の平をパチンと合わせてなんだか楽しそうに言う先輩になぜか夕歩が同意するから、この二人で仲良くやってる方がいいんじゃないのかしら…、なんて。
夕歩に合わせて少しだけ体を屈めて話をしてる先輩は何時もの通りに笑っていて。
それを見上げながら返事を返している夕歩もそれなりに楽しそうで。
……二人のどちらと寝るがいいのか決めろ、と迫られているとはとても思えない。






正確には『どちらと寝るか』では無くて『どちらに抱かれるか』の選択らしく。
仲良くガールズトークのノリで『染谷ゆかりの性感帯ついて』話し合ってる二人からこっそりと逃げたくなる。
(ぼんやりしているようでさすがに二人ともそういう時には鋭い勘を発揮するからすぐに捕まった)

「私は足だと思うけど」
「…私は耳かなぁ、って」
「何の話ですか、真顔で二人で話してないでください」
「あ、でも大きいと感度が鈍るってアレは嘘だと思うの。大きさって関係ないみたい」
「……それは私に対する嫌味ですか?」
「ち、違うわ!静馬さんのは静馬さんので凄く可愛いと思うの」

……お願いだから二人でイチャついてください。
槙ゆかが絶滅しかけている昨今、希少種の槙夕がこっそりひっそりと繁殖してもいいと思うの。

「大きさと感度の関係はゆかりで確認すればいいと思うんです」
「あ、それ名案ね」

名案じゃないし、だから、ひたすらに私が抱かれる側なのは気に食わないけど。
…だからと言ってこの二人を抱きたいか?と聞かれれば………まあ、それはそれで…。
(どこかから『染谷ぁぁッ!』て情けない泣き声が聞こえた気がするけど)
(一応、感度をチェックしてくれる恋人はいる設定です、そう、あのヘタレ)

「順に(一応)悪いからいいです」
「(一応)なのね」
「はい、あの人がここにいたら鼻血たらして観賞し始めて止めることすらしなさそうなのが悲しいですけど」
「順、ずるい…」
「ずるい、って言うかアレ(一応)恋人だから」

また聞こえた『そ、染谷ぁ…っ』って空耳は聞こえなかったことにして。
くいっ、と髪を一束掴まれて引っ張られて。
……引っ張られて顔を下げさせられて、その意図を不思議に思わず大人しく屈んだ私も私だけど、あっさりとキスしちゃう夕歩も夕歩だと思うの。

「んっ…んんっ!んー!んッ!んーんん!!!」

…しかも、ディープなディープなディープなキスで。
息継ぎのためにやっと離れた夕歩は余裕で(キスの息継ぎは順よりも夕歩の方が上手)私の唇を一舐めして行くから。
(むしろ、キスも夕歩の方が上手)

「…静馬さん、抜け駆け」
「上条さんもどうぞ」

待って、そこで私の意見は無………無視なのね。
今度はさっきと逆に顎を掴まれて上を向かされて。
見上げながらするキスは嫌いじゃないけど(順相手じゃそうでも無いけど)、息継ぎはさせてもらえる代わりに執拗に首筋を指先で撫でるから反射的に腰が逃げようと動く。

「っあ……」

………どちらも恋人(一応)よりも上等と言うか、上手いキスをしてくるから。
どっちに抱かれるか、なんて決められるわけもなく。
(『そこはどっちもノーでしょ!』と叫び声が相変わらず遠くで聞こえた)
(『だってあなたよりキスが上手い』って返したら泣きながら部屋の隅で膝抱えてるけど)
(あくまで比喩で順がこの部屋にる訳じゃないから。さすがにいたら…『あなたが死ぬ気で二人を止めなさいよ!』とけしかけられたのに)

「…上条さん」
「…はい」
「…もうジャンケンで決めませんか?」
「どちらが先にするか?」
「いえ、それだと負けた時に色々辛いんで上と下、どっちがいいかジャンケンで」
「あ、私、下で」
「え?私は上がいいんで……ジャンケンいらなくなりましたね」
「本当、最初からこうしてれば良かったわね」

良くないわよ、全く良くないから。
だいたい、何で私ばかりが三人でする時に受けてばかりなのよ。
最強の誘い受けは夕歩の方でしょ!
(そして最恐の襲い受けは祈さん。綾那だって毎日大変なのよね………)

「もう順でいいから助けて!」

ここにいても見てるだけで、むしろ手拍子で二人を応援し始めそうな恋人(一応)の名前を呼んで。
……あり得る、あの人なら全く役に立たないどころか二人の行為を見て本当に役立たずに(卑猥な意味で)なる可能性大ね!

「…ゆかり」
「いや、あの夕歩、耳触るの止めて…」
「リラックスして、ゆかり」
「先輩も太ももさわるの止めてください。…さっきの性感帯云々って私が感じるかよりも二人がフェチな部分ってだけなんじゃ…!」

正解を知ってる恋人(一応)だって『胸』とか答えてそうで。
違うの、私が一番好きなのは背中なの!なんて主張しても誰も聞いてはくれない所か無理矢理にでも自分が主張した部分を正解にしようとするから。


「ほら、ゆかり」
「…タイトル確認してみて」



「…『黙って泣きやがれ』?」






「黙ってなくてもいいのよ、むしろ鳴いていいの」
「どうせ、黙ってるなんて無理だから。……色々な意味で」
「ちょっ、待って!夕歩も先輩も落ち着いて…!」
「「落ち着いてるよ(わよ)」」
「そこは駄目って……んんっ……!」















……とりあえず、最終的に黙って泣くはめになったのは順だった、とだけ伝えておくわ。
















グダグダで終わる

END
(14/09/25)

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