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□Say what you need to say
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【Say what you need to say】


自分で言うのも何ですが、あたしって面食いだと思うんです。
そりゃー、綺麗なモノを好きなのは人間としての本能で、人として正しい道だと思うんです。
(『女の子』って生き物はそれは誰だって可愛いけど)
胸のサイズにはこだわりませんが(こだわってはいない、たまたま彼女のはそれなりに大きかっただけで)巨乳より美乳。
それにさ、いくら『あたしは面食いじゃありません』なんて言ったって、あたしの隣にいる人を見たら……そんなの嘘だろ、ってなんでしょう。




「ね!」
「…最後の主張だけは良く分からないけど、あなたの頭が残念なのを再々々々々々確認くらいはしたわ」
「あたし、綾那よりは成績いいよ」
「あの人はやる気だしてないだけよ」
「『私はまだ本気出してないだけ』ってなんかそれ一番質が悪い気もするんですが」

染谷の頬に手を伸ばせば払いのけられて、それなら!って逆から手を伸ばせばまた払いのけられて即席のジャッキー映画みたいになった後に諦めたのはあたし。

― べたべたしないで

って!恋人なのにベタベタいちいちゃ出来ない意味があたしには分からない。
節度を守れって、外でコトに及ぶように誘うのはいいんだ!なんて叫べば痛い鉄拳に鼻を涙目で押さえて。
だけど、殴った後に人にぼろくそ文句を言う恋人の赤くなってる頬が可愛い、とか、ね?
ちょっとずつ、ちょっとずつ、溜まっていくものは仕方ないと思うんだ。
(性欲の話じゃなくて)
あたしと染谷は他人だし。
意見の食い違いとか、自分のやりたい事が出来ないとかさせてもらえないとか。
(性欲の話じゃなくて)

― あたし面食いだし。

って、言葉をつけてしまうと何だか顔だけで染谷を選んだみたいで。
殴られても『可愛い』って思ってしまうのだって、ふとした瞬間に見える細い細いうなじに見惚れたり、あたしの肩を叩く手の平の感触に不整脈起こしたり、そんなの『彼女』じゃなくてもいいのかも、って。
(性欲の話じゃなくて)

「ハグあんどキスあんどターン希望」
「勝手にターンしてなさい」

好きすぎて、側にいるのが当たり前になりすぎて。
何だか染谷と『同化』してる気持ちになるってどうかしてる。

「ターンしたってあたしの世界で一番綺麗なのはあんたです」
「どこで覚えたの、そのセリフ」
「今思いついた。あたし、詩人」
「死人にしてあげましょうか?」
「あんたの手でならそれはそれで」

鉄拳が飛んでくる前に慌てて両腕で顔をガードして(ってガードしてたら腹に一発くらったことはあるけど)だけど何の音沙汰もないから恐る恐るガードをとく。

「…私、あなたのどこが好きか未だに謎だわ」
「顔じゃないの?」
「それは無いわ」
「即答とか順さん泣きますよ」

頬をつねってくれるからその手をチャンス!と握って殴られないうちにその指先に唇を押し付けて。
外見だけで好きになったわけじゃないんだ、って。
嫌そうに『何であなたが好きなのかしら…』なんてセリフに泣くフリをしながら。
それでも彼女の『好き』が嬉しいあたしはたぶん性癖おかしい。
握った指先は振り払われなかったから調子に乗って、反対の手で傷跡に触れて。
美人の顔の傷はたまらない!って、また外見に関することであたしが彼女を好きな理由はそれじゃないはずなのに。

「…順」
「はい」
「……ニヤけないで」
「ニヤけんなってこんな間近にこんなに美人がいて、んでその美人があたしの恋人なのにニヤけんなって?」
「顔なの?あなたは顔だけなの?」
「ううん、美乳も………痛い痛い痛い痛いです!それ!」

捻じ曲げられ中指にふーふー息をかけて、こんなコトされたら使えなくなんじゃん!
(性的な話です)

「毎日毎日毎日、よくそんな軽口ばかり叩けるわね、あなたの唇」
「染谷の好きなあの唇ですか?」
「ガムテープでふさぎましょうか?」
「うちの恋人は梱包も上手」

呆れたため息を染谷の好きな唇で受け止めて、それからしたキスは呆れるほどに抵抗が無くて逆に構えて引けてた腰が驚く。
…………キスの後に見上げてくる瞳がたまらなく好き、ってあたし染谷に言ったことあったっけ?

「…なんでへっぴり腰なのよ」
「臨戦態勢なのが染谷にバレないようにです」
「そんなの何時でもバレバレよ」

あ、そうなんだ。
まあ、確かにそうかも。
だって『あんたのキスした後の瞳が好き』って伝える前に何時もこうやって胸倉つかまれて染谷からのキスに溺れさせられるから。

「あなたって馬鹿な台詞ばかりだけど…」
「んー?」

胸倉をつかんでる手をさりげなく自分の背中に回しながら、この角度じゃ残念ながら染谷の瞳は見えないから唇にかかる吐息を楽しんで。

「…それを全部本気で言ってるって所が一番質が悪いのよね」

あ、あたし、染谷のこういう呆れた声も好きだ、って。
また性懲りもなく思ったって言う暇も無くて。
だけど……

「あ」
「……なに?」

不機嫌な声はこういう行為を遮った時にいつも出す声で。
この声はあまり好きじゃないから(比較的にだけど)思いついた言葉は飲み込もうとして、だけど思いついたそれは今言わないといけない気がして。

「あたし、あんたが必要だってちゃんと伝えたっけ?」

それはそれは綺麗な彼女はしばしあたしの言葉に動きを止めて。
それから、瞬きを3回。

「…伝えてもらって無いけど、知ってるわよ」
 
― だから、馬鹿な台詞も言われなくても全部知ってるわよ

そう耳の中に吹き込むから、こんな風だから、あたしは何時までも彼女には敵わないまま。

「…あんたってサイコーの女だよね」
「……黙って」

ご命令どうりにあんたの好きな唇を黙らせて、今度は別の愛情表現に。
だけど、どうしてもどうしても我慢出来なくて一番彼女が把握してるだろうコトを言わずにはいられなかったのは……彼女が悪いよね?


「…好きだよ、染谷」















何回呆れられても、あんたが『知ってる』って分かってても。
あたしはきっと何度でも何回でも繰り返してそう言うんだろうね。








END
(14/11/11)

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