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□Pretty/Unpretty
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【Pretty/Unpretty】




世の中にはどのくらいいるんだろう?
毎日毎日、鏡を覗き込んで映る姿に満足する女の子が。
鏡に問い掛けてみたことのない人はどのくらいいるんだろう?
『世界で一番美しいのは誰?』
鏡が答える前に正解が解っている私はたぶん……不幸なんだと思う。



自分の外見がクールだと、そう胸をはれるくらいには手をかけている。
……この言い方だと頭悪そうな感じね。
刃友のおやつ代よりもメイク用品代の方がかかっている。
なんてことは胸をはって言えることじゃないのかも知れないけど。
(それでもおやつ代にそれだけ使ってる私は偉いと思う)
鏡に問い掛けたいことがある。
『私が恋した相手はなぜ白雪姫の外見をして笑顔で毒リンゴを食べさせそうなあの女なの?』

「毒リンゴって……それはさすがにひどい評価ね」

丁寧に丁寧に服を着せる手は動かし続けたまま、言葉とは裏腹に目元も口元も笑ってるのがまた気に障る。

「妥当な評価でしょ」

……外見がいいのくらいは知ってるけど。
至近距離で俯いた顔を見つめているとため息をつきたくなった。

「そこのお嬢さーん、いいリンゴ入ってますよー!って?」
「どこの八百屋よ、あんたは…」

ボタンを留めてくれている指先が意外に硬いことやごつごつしている所なんかは私にとっては減点対象でしかないのに。
なぜか紗枝の場合だけはそれが減点対象にならない。

「じゃあ、焼けた鉄の靴を履かせたらいい?」
「何?その怖いの」

手入れを怠っていると言うのでは無く、手入れが追いついていない感じで。

「間違えた。それは継母がやられるんだったわね」

―はい、出来た
もう一度整えるように裾を引っ張って、その手が今度は髪に伸びてくる。

「…くしゃくしゃ」

そうした張本人の癖に髪を撫でながら笑うから。

「止めて、自分で直すから」

……綺麗な人なんて嫌い。
自分が劣って見えるから。
鏡を見て問い掛けていたのはずっとずっと昔、幼い頃の話。
夢見ていた王子様は現れず、私の前に現れたのは毒リンゴの似合う女。

「不思議」
「何が?」
「いつものセットもメイクもネイルも完璧な紅愛よりね…」

途切れた言葉、代わりに硬い指先が唇をなぞる。
唇がガサガサになるから止めて、そう言えばいいのに次に触れる柔らかい感触を予想して何も言えない。

「今のセットもメイクもネイルもボロボロの紅愛の方が可愛く見える」

唇の隙間で囁くから『嫌みか?』と眉をあげて。

「…あんた、それ。私の努力全否定してる?」
「あ、紅愛でも努力とかするんだ?」

その点では努力のいらない女に、しかも無駄にいい笑顔で言われたくない。
今度のは完璧に嫌み。

「うっさいわね」
「あ、わかった」
「何よ?てか、人の話聞きなさいよ」

−綺麗なりたい
そう願わない女の子が世の中にいるだろうか?
メイクもネイルもあんたの為、なんてバカバカしいことは言わない。
綺麗になりたいのは自分の為。

「完璧でプリティーな紅愛は誰でも見られるでしょ?」
「……バカにしてんの?」
「そうじゃなくて」

だけど……魅せたい、と。
恋しい相手を魅了したいと思うのは私だけでは無いはず。

「だから、私しか見られないこのボロボロな紅愛が世界一可愛いのねと思って」

…よくも平気でそんな事が言える。
私がどれだけ自分に手をかけているか知ってて、あんたはそういう事を言う。

「…あんたって人は尽く人を苛つかせること言うわね」
「そう?本当のことしか言ってないけど」
「………………私の努力全否定じゃない」
「ん?」
「何でもないわよ」




……世の中にはどのくらいいるんだろう?
毎日毎日、鏡を覗き込んで映る姿に満足する女の子が。
鏡に問い掛けてみたことのない人はどのくらいいるんだろう?
『世界で一番美しいのは誰?』
私が鏡ならこう答える。
『世界で一番美しいのは毒リンゴの似合うこの女です』って。













……じゃあ、私は毒リンゴの似合う女に見合うだけの女になれてる?








END
(11/10/01)

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