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□Kiss and Cake
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【Kiss and Cake】
『どうしても食べたいの』
我が儘をあまり言わない姫様の我が儘は可愛くて。
それを聞かずして何が静馬のお庭番だ!ってね。
て、事で片道一時間。
往復二時間のケーキを求める旅路に出ることになった。
学園から電車で45分、その後徒歩で15分ほどの所にあるケーキ屋さんのケーキは確かに絶品で。
以前雑誌で見て、わざわざ夕歩のために買いに行ったお店だった。
授業が終わると同時に教室を飛び出して私服に着替えて(あ、綾那に出かけるって言うの忘れた。まあ、あいつはあたしがいてもいなくてもどうせ気にもしないか)今からならまだ閉店時間に間に合う。
…夕歩の好きなケーキ残ってればいいけど。
「順」
小走りに門を駆けだして、呼び止めた声は聞こえないふりをする。
「順!聞こえてるんでしょ」
…めげないんだよ、この人。
この人、めげずにあたしの近くに来るんだよ。
「ごめん、染谷。今急いでる」
「じゃあ、歩きながらでいいから聞いて」
早歩き通り越して競歩の勢いで歩いてるのに隣に付いてくる染谷も息すら切らしてない。
周囲の人から見れば並んで小走りに走りながら会話してるおかしな二人組だよ。
「なに?」
「どこに行くの?」
「質問したのはあたしです」
「用は無いの。あるけど」
「どっち?」
息がきれる前に駅に到着。
うわー、この人結局ここまで付いて来ちゃったよ…。
「では、あたしは電車に乗ります、さようなら、アデュオス、しーゆーねくすとたいむ」
言い捨てて逃げるように(いや、実際逃げたんだけど)改札を通って……振り返ればいるホラー映画みたいな女、染谷ゆかり。
……こわっ!マジで怖いってこれ!!
「だから、何なの?」
「あなたが行き先教えないから」
「染谷に教える義務ない」
「電車来たわよ」
お、ヤバっ!!
……………って。
「…マジ?」
聞きながらマジなのくらいは見れば分かるんだけど。
あたしの隣には制服姿のまま、電車に乗ってるホラー映画擬きの女。
「まあ……話す時間は出来たわね」
頭の中を流れたのはオーメンかエクソシストか。
無難にサスペリア?
女ターミネーターに追いかけられてる時の気持ちってきっと今みたいな気持ち。