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□Cause girl you're amazing
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【Cause girl you're amazing】



彼女がきれいだって気付いたのはずっとずっと昔。
だから恋をしたんじゃなくて恋をしてたからそう見えたのかも知れない。
……なんて、気付いたのは最近だったりする。



「最近、ゆかりまた綺麗になった」
「……そう?」

夕歩の言葉を聞いた瞬間『やっぱり!!』と思ったのに、反射的に口を出たのは気のない声。
染谷になんか興味ありません、ってふりはたまに辛い。
興味ありません、てふりをしながらそれでも『最近の染谷はさらにかわいくなった気がする!』とか思ってしまって悩んでたりしてない。

「うん、前から綺麗だったけどなんて言うか……輝きが増した?」

おー、なんか凄い言われ方されてるけど。
夕歩さん夕歩さん、消え行く星じゃないんだから。

「恋でもしてんじゃない?」

………って、だからあたしは何でこう自分で自分の首を絞めるようなこと言っちゃうかな!?
その相手は誰?ってなればヤバいのはあたしなのに。
染谷があたしを好きなのも、あたしが………まあ変な気になってるのも夕歩や綾那には内緒。
別に悪いことしてるわけじゃないけどさ、こそこそ隠してしまう。
まあ、でも、ほら……夕歩は否定してくれるはず……

「ゆかりが?……そうかも」

あれ?
え?
いやいやいやいやいや、そこで納得しちゃうの???
あっさりと夕歩が同意してしまったから慌てた。
ここに染谷がいたらきっぱりと否定してくれるんだろうけど。
(いや、染谷のあの性格だとその相手があたしだと宣言しそうで怖い)

「ほら、あれだよ。やっぱ綾那が気になんじゃない?意外にあの二人仲良………」
「綾那じゃないよ」
「……し……じゃないかな?」

差し出した身代わり山羊さんはなぜか拒絶するように否定された。
あ…、あれ?ゆ、夕歩さーん?
さっきまで楽しそうに笑ってたのに。
なぜか小さい頃に中国雑技団で見た変面を思い出した。
あれくらい急激な変化。
笑顔があっと言う間に無表情へ。

「いや……あたしはただ単にもしかしたら的な意味で言ってるだけなんだけど…」
「綾那じゃない」

二度目の拒絶。
あー、もー、なんでかなんてわからないけどこういう時の夕歩はとにかくヤバい!
けど、あたし何か夕歩の気に障ること言った??

「あ、ほら、じゃあ、上条さんとか!いい人っぽいし、あの人」
「うん……そうかも」

口元に笑みが戻ったから、夕歩にバレないように胸をなでおろす。
不機嫌な姫様ほどあたしの心臓痛くする人もいないよ、ほんと。
二匹目の身代わり山羊さんはお気に召したみたい。

「応援してあげないと」
「応援?」
「うん。ゆかり、意外にその手のこと苦手そうだから」
「あー……いや、まあ……うん、どうだろね?」

苦手かどうかは置いといて、ど真ん中直球勝負しか出来ない人ではあるだろうね。
自分の手の甲を横目で見て、感触なんて残ってないはずなのにまだ残ってる気がして頬が熱くなる。
そんなの普通しないし。
どこの国の王子様だよ、手の甲にチューって。
あまりの男前加減に心停止しました、いや、これマジで。
『上演中のAEDのご使用はお控え下さい』てことであたしの心臓は止まったまま。
それを取り出して箱詰めにして贈るのを想像したくらいであたしの意識は夕歩に戻る。
耳鳴りが遠ざかる時みたいに少しずつ夕歩の声が大きくなる。

「知らないだけで……」
「ん?なに?」
「私たちが知らないだけでもう付き合ってるのかも」

……それだったらどれだけ良かったか。
あの二人が付き合ってるんならあたしは全力でエールを送るよ。
お似合いの二人だからね、だけど…

「それは無い」

口にしてみて……これじゃ、さっきの夕歩みたいだ、って。
顔が強張ったのが自分でもわかった、それに夕歩の驚いたように開かれた目。
だ・か・ら!
なんであたしはこう自分で自分の首絞めちゃうかな!
ここは『そうかもね』て、話を終わらせるのがベストな選択でしょ?

「……何か知ってるの?」
「いや、知らない知らない。ただのカン」
「順、何かおかしくない?」
「甘くて美味しいお菓子みたいだと言われる」
「言われてないでしょ」
「一度ご賞味あれ」
「止めて、キモい、食べないし」

ウザそうに顔を顰めながら言われてもへこまない。
今日はなんだかあたしも夕歩もおかし…………あれ?
首をかしげて、それと背中の方でドアの開く音がしたのは同時くらい。

「おかえり、綾那」
「………ただいま」

夕歩に答えてる声を聞くともなしに聞いて。
かしげた首を後ろにそらしてルームメイトを見つめる。

「おかえりー」
「……………」

おーおーおー、夕歩には『ただいま』を言うのにあたしには無しかよ。
無造作にあたしの隣にあぐらをかいて座るから『お、珍しい!』とかね。
綾那さん、あたしの隣とかにあんま座りたがらないのに。

「今ですね、最近の染谷の美について話してたところです」
「…………は?」

……そういうものすごーく嫌そうな顔するなら、染谷に色々言いつけるぞ、あんたは。

「最近。ゆかり綺麗になったね、って」
「そう?……どこが?」

うん、綾那だからね。
だって、無道綾那だからね
そこで『ああ、綺麗になってる。前髪5ミリ切ったせいかな?』とか言い出されても怖い。
そんなの綾那じゃない。

「夕歩の方が綺麗だと思うけど」
「「………………………」」

さらり、と言うから瞬時に言葉の意味は理解出来ない。
うん、散々毎日のように似たようなことを主張してる癖にね。
だけど今回その言葉に『でしょー!!』と賛同出来なかったのは……なんて言うか嫌な感じがしたから。
嫌みっぽく言ったわけでも(綾那が夕歩にそんな言い方するわけないし)、裏があるように言ったわけでもなく。
ただ思いついたことを言っただけ、って感じのいつもの天然発言と一緒だったのに。
…………ああ、そうか。
理由に思い当たって、その理由の原因を見つめる。
夕歩がその言葉に笑わなかったから。
何の感情も見せなかったから。
『ありがとう』って普段なら言うはずなのにそれも無かったから。

「……恋する乙女は綺麗なんだよ」
「知ってる」
「外見と中身が同じくらい綺麗だったら良かったね」
「夕歩は綺麗でしょ?」

……………お?
何か……なんでしょう?この和やかながらもどこか薄ら寒いやりとりは?

「夕歩はいつでもかわいいよ。あと……染谷も同じくらいかわいい」
「何だ?その主張」
「あんたが『夕歩の方が』って言ったから訂正してやったの」

何も考えてないだけなんだろうけど綾那のその発言、染谷に聞かれたら喧嘩売ってると誤解されても仕方がない。
恋する乙女がきれいだと言うなら染谷もそれに当てはまるんだろうし。

「いや、ゆかりももちろん綺麗だけど…」
「もう、いいよ。わかってるから」

深い深いため息に綾那が苦笑いなのは夕歩が相手であるからで、それがあたしだったら殴り倒されてるはず。
うちの姫様最強!

「それに夕歩に『かわいい』って言うのは増田ちゃんの役割でしょ?」

自分の恋人に『かわいい』とか『きれい』って言うのは恋人の役目であり特権だと思うんだよね。

「……そうだね」

ほんわり、と笑うから。
ああ、そんなのいつも言われてるんだろうな、とかさ。
あたしが主張しなくても(いや、それでもあたしは主張し続けるけど)夕歩にはちゃんとそう言ってくれる人がいるんだしね。
……言いたくても言えない相手もいるけど。
染谷がきれいになった理由があたしならそれだけであたしは幸せすぎる。
ああ、うん、違うか。
彼女はいつだって最高にきれいなんだよね。
彼女に恋しないなんて世の中の他の人の方がおかしい。





…そう言えば。
あたしは自分でおかしくなった理由はわかってる。
だけど、夕歩のは…………何でだろ?





END
(11/10/01)

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