【2】

□dog days are over
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【dog days are over】




― 生き残るためにはどうすればいい?

― 好きなものを全部捨てて逃げ出せばいいよ





「どういうことでしょう?」
「何が?」

部屋の窓から下を見下ろして、なぜかいつもにない真剣な声。

「まだまだまだ暑いというのに女子たちの格好が秋仕様になりつつあるのは!」
「季節を先取りしたいんじゃないのかな?言うほど秋仕様でもないと思うけど」

窓から同じように見下ろして色とりどりの生徒たちの私服を眺める。
夏休みも残り少なくなり、帰省してた子たちもほとんど学園に戻って来てる。

「生肌率が低い!」
「…………………」

無言のまま、まばたきを繰り返して。

「夏は生肌率があがるから目の保養ができるのに!生足も生腹も生乳も好きなのになぜ夏は終わってしまうのでしょうか???あたしには理解できません!!」

まあ………どんな子かは知ってたし、わかって付き合ってるんだし。

「かむばっく!あたしの夏!!」
「ねえ、久我さん…」
「はい」
「……夏の終わりには恋も終わりやすいって知ってる?」
「なんですか!?なんでそんな怖いこと聞くんですか!おねえたま!!」

キャンキャン吠えるから、人懐こいゴールデンレトリバーを連想して。
気をしずめてあげるためにその毛並みを撫でてあげる。

「ほーら、よしよしよし」
「………嬉しいけど複雑な心境なんですけど」
「『ワン!』って吠えてみて」
「て、まんま犬扱い!?」

頭を撫でて、喉元を撫でて、鼻を撫でてあげると掌をペロペロ舐めてくれるからうちの子は本当にお利口。

「犬の日が終わるから」
「………それをあたしを犬扱いした後に言うってことは最終宣告ですか?」

掌を舐めるのに飽きたのか今度は指を甘く噛むから。
暑いはずなのに背筋がぞくぞくする。

「夏が終わるから」

そう言いかえて、最悪の日々を終えるのを手伝ってくれたのもこの子だったと思い出す。

「……犬は好き」

母親も父親も妹も刃友も置いて逃げだしたいと思った時があった。
置いて逃げることが大事な人たちの幸せになると。

「あたしは?」
「そうね……」

置いて逃げようと思えなかったものがある。
生き残れなくても置いて行きたくなかったものがある。

「一度拾ったからには最後まで世話を見ないと」

一瞬だけ大袈裟に眉をひそめて、今度は顔いっぱいの笑顔。

「……ワン!」

お利口さんなうちの子にキスのご褒美をあげて。
丁寧に丁寧にその鼻筋撫でてあげる。
大事なものからもう逃げ出さなくていい。





……さあ、夏が終わる。



END
(11/11/24)

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