【2】

□I have been changed "For Good"
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【I have been changed "For Good"】




−私はここまで


……たぶんそう言いたかったんだと思う。







いつか終わりが来るのは分かっていたのに。
それは私だけじゃなく、綾那も。
そしてその終わりがハッピーエンドじゃないのも分かってたはず。
それでも先延ばしにしてたのは……どっちのせい?





− ゆーほ
じっくりと温かさが染みこんでくるような。
ホットミルクみたいな人。
呼ばれる度に心がほかほかして、幸福な気分にしてくれる人。
− 夕歩
甘くなくて乾いた音。
ブラックのコーヒーみたいな人。
芳ばしい匂いに誘われて、つい唇をつけたくなる。
……渋い味に後悔しながらも依存すると分かってるのに。



額が痛い……。
指先で突いてみて、腫れてないかの確認。
……うん、大丈夫。
窓硝子に映る自分の顔を見て、もう一度腫れてないことを確認する。
…大丈夫。
涙も、もう出てない。

− 夕歩

順がいない時、綾那と2人きりでいるあの沈黙の時間が好きだった。
2人でいてもお互いに好きなことをしてて、顔をあげた瞬間にふと目が合う。
そんな時間が私は好きだった。

− …コーヒー飲む?

私の存在をふと思い出したかのように唐突にそう言う時の綾那の優しい顔が好きだった。

− …うん、飲む

嫌いなコーヒーがブラックで飲めるようになったのは綾那のせいだよ。
……あんな事になってからはコーヒーを勧めてくれることは無くなったけど。
足を止めて、もう一度自分の顔を窓硝子に映して確認する。
たぶん私は綾那のいれてくれてた渋いコーヒーがもう一度飲みたかったのかも知れない。
もしくは純粋にそれをいれてくれる人が欲しかったのか。
……もしくはホットミルクだけじゃ満足出来なかったのか。

ゴンッ!

反射的に頭を硝子にぶつけて。
綾那の鼻くらいならともかく(それでもかなり痛そうだった)硝子窓に突っ込んだらさすがに私の額も無傷じゃないと思う。

「……一番悪いのは私なのかな?」

人目が無いのをいいことに冷たい硝子でそのまま額を冷やしながら呟く。
誰か綾那に教えてあげた方がいいと思う。

『あなたの嘘は下手すぎてバレバレですよ』

……って。
綾那は本当にへたくそ。
騙されてるのに気付かないふりをして、騙されてあげた。
あんな目で見られたら、あんな行動に出られたら、私に出来るのは頭突きくらい。
……うん、平手でも良かった、なんてやった後に気付いたんだけど。
下手くそな嘘をつかせた原因は私なんだと思うともう一度硝子に頭をぶつけたくなった。
下手くそな嘘をついてまで私を引き離そうとしたんだと思ったら、やっぱりぶつけるべきかもってそんな気分になった。

「……『好きだ』ってそこだけ本当なんだもん」

力づくで奪おうなんて思ってない癖に。
思っても絶対に実行はしない癖に。
傷付ける為のキスも誠意のない言葉も嘘の癖に。
『私』と『いい人』
綾那が選んだのはたぶん『いい人』の方。
そして、反対に私は『いい人』から遠ざかっていく。

− あのね、綾那。今の綾那みたいな人を『いい人』って言うんだよ。もしくは……

「……馬鹿」

誰かと出会って変化出来るなら、その人は私の人生に大きく影響するんじゃないかな?
……良い方へ変わったのかは誰にもわからないけど。

「……私、何時まで独り言言ってるんだろう?」

窓から離れて、もう一度周りに人がいないのを確認する。
ついでに瞬きで浮かんできたものを誤魔化す。
はい、深呼吸。
深く深く深く息を吸い込んで、一息に吐いた。

「……帰ろう」

部屋に帰ればホットミルクみたいな人が出迎えてくれる。
足早に歩き出しながら、もう決めていた。
どう言われても今夜そうしよう、と。

「…ただいま」

ドアを開けながらもう決めていた。
なんと断られても逃げ腰になられても恵ちゃんとそうしよう、って。

「おかえりー、ゆーほ」

……それこそ、力尽くで奪う覚悟で。










…私は何を望んでたんだろう?
どこへ進みたかったんだろう?
良い方へ変わったのかなんて誰にも分からない。
分かってるのはもう永久に前みたいに戻れないと言うこと。
心地よい沈黙も綾那のいれる苦いコーヒーも戻ってこないと言うこと。




……ねえ、私たちは良いほうに変われたかな?





















−Who can say if I've been changed for the better?
−…I do believe I have been changed for the better.Because I knew you...
−I have been changed "For Good"




END
(11/11/24)

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