【2】

□BABY
1ページ/1ページ



【BABY】



あたしの初恋は見事にあたしの心を打ち砕いた。



かっこつけてクールなふりをしても、そんなの彼女にはバレバレで。
『ただの友達』が『ただの友達』じゃなくなった時点からあたしに勝ち目なんて無いのに。
I'm gone!なんて、あたしが逃げ切れるわけもなく。

−私の愛が欲しいんでしょ?
−私の心が欲しいんでしょ?

そう訴えてくるから。

−欲しいならあげるわよ

そんなこと言われたら逃げれるわけないじゃん。
だって欲しかったもん。
そこにはもれなく体も付いてくるなんて事は……なんとなくは解ってたつもりだけど。




しかけるのはどっちからだろう?
自然にそうなるのが理想。
って、その理想は意識しすぎて遠い感じもするけど。
あたしは染谷が自分のてぃーんえーじどりーむになればいいと思ってるし。
たぶん、染谷もそれは同じだとは思う。
興味はある。
かなりある。
それはもうかなりたくさん盛りだくさんにある。
OKのサインはたぶん貰ってる。
たぶん、しかけなきゃいけないのはあたしの方。
追いかけまわしてくれた彼女を追いかけるのは今度はあたしの番。
『愛してます』
だけどさ(さっきから『だけど』多いね、あたし)、そう伝えるためにはむしろしかけないことが表現の方法なのかも知れない……とか思ってしまうんです。
友人がいます。
わりと大事な、だけど(また使った)親友と呼ぶのは気恥ずかしい友達。
その友達は後悔してたから。
『愛してる』を伝えるために行為に至って、言葉にはしなかったことを。
大事な人がいます。
友人と呼ぶにはちょっと違って。
大事な人、そう呼ぶのが一番しっくりくる人。
その人も後悔してた。
『愛してる』は伝えてもらってたはずなのに、一度も確認しなかった自分を。

「……順」
「…ん?」

染谷の腕が背中に回って。
抱きしめた腕の中、隣に横たわる彼女の頬を撫でる。

「…染谷、寒くない?」

床にそのまま転がってるから、寒くないように彼女の背中を何度かさする。

「あなた、体温高いから」

甘い香りにぐっ、ときて。
甘い声にぐっ、とくる。
何かに堪えるように歯を食いしばって。
触れるだけのキスをもう一度唇に。

「染谷」

『愛してる』って、どうすれば一番うまく伝わるのかな?
どうすればこんなに好きだって伝わるのかな?
粉々にされた心はどこに穴が開いてるのかも解らない状態。
これじゃ、検視したって致命傷がなんだったのかなんてわからないはず。
…まあ、凶器は目の前にいるこの人なんだけど。

−欲しい、って言ってよ

また、彼女に助けを求めてる。

「…好きです」
「何でそんな改めて言うのよ」

彼女に逃げられるのがあたしの悪夢。
down,down,down
落ち続けてるのはあたしだけかも知れない。
初恋が終わるかも知れないなんて、信じられない。

「……なんでも、あげるから」
「…何もいらないわよ」

言った後に『一つを除いて』って囁いてくれるから。
あたしの初恋はまだまだ終わりそうにないと安堵する。
『ただの友達』には戻りたくないけど。
『ただの友達』のままの方が、あたし達は良かったのかも知れない。

「……好きだよ」

だから、もう少し待ってください。
今度はちゃんとあたしが追いかけるから。
もっと上手に伝えられるまで。
『愛してる』ってちゃんとあんたに伝わるまで。














…その時には指輪でもあたしでもなんでもあげるから。




END
(11/12/12)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ