【2】

□きすandけーき
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【きすandけーき】



−どんな時に『幸福』を感じる?

たとえば……雨の後の虹だったり、不意に自分の好きな曲が流れた時だったり、散歩中のバーニーズに遭遇したり、夕食が好きな献立だったり、真夜中のケーキだったり。

−そんな些細なことに『幸福』を感じる

そう言えば彼女はどんな顔をして笑うだろう?
うん……、きっと彼女は笑ってくれる。






「…キスしたいな」

真剣な表情でそう言って呟けば上の段に寝ている彼女はどんな顔をするのか。
口の中でだけ転がした言葉は幸いなことに聞かせたい相手には届いてない。
真っ赤になって逃げられるのか、覚悟を決めてキスをくれるのか。
深夜の思考は熱も伴うから質が悪い。
熱も闇も孤独も伴うから質が悪い。
最初から一緒に寝ておけば良かった、なんて先に寝入ってしまった自分が言うことでもない。
なぜ、自分のベッドで寝てるの?なんて聞かなくても優しい彼女のこと。

−睡眠を邪魔したくなかった

容易にその思考が読めてしまう。

−寝苦しくても睡眠を邪魔することになっても一緒に寝たい。

深夜にたたき起こして言うことでも無い。
だけど、深夜の思考は嫌な熱を持つ。
明日の朝になれば消えるそれが体中を満たして睡眠を邪魔する。
ああ……、ほら、結局安眠なんて出来てないんだよ。
ベッドの中でしばしバタバタと寝返りをうって、それで彼女が目覚めればいいのに。
…………うん、このくらいで起きる彼女じゃない。
耳をすませば聞こえるのは規則正しい寝息。
わざとの咳払いも小さく小さく名前を呼んでみても、その寝息は規則正しいまま。
いっそのこと、寮中に聞こえるくらいの大声で叫んでしまおうか。

−増田恵、今すぐ目覚めてキスしに来て

……呼んでないお庭番が現れそうだから(しかも泣きながら)それも断念する。
夜の闇を怖がるほど、もう子供じゃない。
闇の中に幻を見るほど恐がりではない……はず。
だから、これは不安なのか別の欲求なのかわからない。

「………キスしたいな」

もう一度、小さく小さく呟いてベッドの天板を見上げる。
……言ったらどんな顔をするかな?
強く強く目を閉じてもう一度だけ眠ろうとするけど、眠りは裸足で逃げだしたまま。
走って捕まえるよりも、ベッドを抜け出して忍び込む方が早い。
起こさないようにそっとそーっとベッドに上の段に忍び込んで。
規則正しく聞こえる寝息に落胆して……安心する。
不安な夜に引っ付いて眠れる背中があるのは幸せなこと。

「……恵ちゃん」

起こさないように小さく小さく囁いて。

「おやすみなさい…」

その背中にキスで今は我慢をしよう。








……たとえばどんな時に『幸福』を感じる?と問われれば。
目覚めたら下の段に寝てたはずの彼女が隣にいたり、朝なのに真夜中のケーキみたいに甘いキスだったり、私を抱き締める彼女の細い腕だったり……。

「……んぅ、幸せ」
「…なに、それ?」

ほら、言えば彼女は笑ってくれる。
だけど、結局最後に辿り着く答えは一つだけ。

「ゆーほがいるのが幸せ」

たった一言で答えが出てしまう。




END
(11/12/20)

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