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□ I'm not gonna teach your girlfriend how to dance with you 〜彼女を上手に欺く10の方法〜
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【 I'm not gonna teach your girlfriend how to dance with you 〜彼女を上手に欺く10の方法〜】



…教えたくないことだって勿論ある







最近、あの子の姿を見つけるのが早くなってきた。
それは動物が匂いで気配を察するみたいに、視界の隅に入るだけで自然にロックオンしてしまう感覚。
あの子がロックオンしてしまう相手はまだ彼女みたいだけど。




「無道さん、嘘下手よね」
「…………は?」

一人でいるのを見つけて、そっと背後から忍び寄るのも最近では慣れてきた。
最初の時みたいに派手に驚いてくれないから、今度は別の手を考えようかな。
訝しげに顔を顰めて、だけどその後自然に座っていた位置を滑らしてベンチの横を開けてくれるから隣に腰掛ける。

「またですか?」

いきなり現れて、いきなり変な発言をされるのにも慣れたと嘆かれたのも最近の話。
私の発言には慣れたと言わんばかりに苦笑してるから、その瞳をわざと見つめてあげる。

「…なんですか?」
「無道さん、静馬さん見てる時、切なそうな顔してる」
「……………………」

笑いが消えて苦さだけが残る。
名前を出しただけなのに、またどこか痛そうに……切なそうに目を逸らすから。
吹っ切った、と何度も繰り返し嘘をつく彼女の言葉はバレバレすぎる。

「もういっそ嘘は付かずに本当のこと言えばいいのに」
「そのにこやかに悪魔の誘惑するの止めませんか?」
「そんなんじゃ静馬さんにも感付かれると思うけど?」
「だから、夕歩には必要以上に近付いてませんよ」

『夕歩』
そう口にしただけでまた苦しそうに顔を顰めるから。
ああ、こんなに分かりやすい人も珍しい……なんて。

「無道さん、ポーカーとかしない方がいいと思うわよ。絶対に私にいいカモにされるから」
「なんで貴方にカモられる予定なんですか?」
「脱衣ポーカーとかどう?」
「真顔で言わないでください」

大きなため息とまた何か痛むみたいに顰めた顔と。
……あ、また今静馬さんのこと考えた。
本当に分かりやすい。

「……祈さんは隠すの上手そうですよね」
「ん?」

笑顔で首をかしげて、言葉の意味が分からなかったふりをする。
あからさまなそれを見て薄く笑うから、最初の頃より人懐こく笑うようにはなったと満足する。

「それ、教えてください」
「私、授業料高いわよ?」
「変われるならそれでもいいです」
「まあ、お望みなら彼女を上手に欺く10の方法くらい教えてあげるけど」
「その10って数字どこから来たんですか?」
「How to本のお決まりでしょ?」
「じゃあ、1から10までレクチャーしてくださいよ」

冗談じゃなく本気で言うから堪えきれずにふき出す。
変化を求めるのは前進しようとしてる証拠なんだろうけど、たぶんこの子は進む方向を間違ってる。
だって、私にそれを教わろうとする?

「……………また、からかったんですね」
「からかってない、からかってない」
「そのあっさりと嘘つくの止めませんか?」
「そういうのを教わりたいんでしょ?いいわよ、教えてあげる。脱衣ポーカーで勝つ方法」
「いや、なんか教わるモノが変わってるんですけど」
「何で?最終試験はそれよ」
「楽しいですか?それ、楽しいですか?」
「楽しい、すっごく楽しい」

彼女を上手に欺く10の方法くらいいくらでも教えてあげる。
上手に欺いて、上手に変われるように。
上手に欺いて、上手に忘れられるように。

「だけど………」

欺いてるうちにそれが本当になるように。

「…ダンスの仕方は教えないわよ」
「いや、それは教わりたいとは言ってないですけど…」

彼女を上手に欺く10の方法、その@。

『伝えたいけど伝えたくない真実は嘘に混ぜて伝える』














…もう二度とあの子とダンスなんて踊らせたくない



END
(11/12/26)

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